自主管理マンションの成功例

自主管理マンションについて相談を受けるとき、多くは「これ以上、自分たちだけでは続けられない」「管理会社へ委託したい」という内容です。

そのため、管理会社の立場から見える自主管理マンションの状況把握には偏りがあります。運営が順調な管理組合からは、そもそも相談が来ません。会計担当者が退任する、役員のなり手がいない、滞納対応が止まっているといった問題が表面化してから、初めて管理会社へ連絡が入ることが多いからです。

では、管理会社への委託を検討したものの、総会で否決され、自主管理を続けているマンションは成功しているのでしょうか。

そうとも言えません。

自主管理を続けているという事実と、自主管理が機能しているという事実は、同じではないからです。

整理整頓されていれば、成功なのか

自主管理マンションの中には、書類、鍵、備品、会計資料、点検記録などが非常に細かく整理されているところがあります。

引継書や作業手順も作られ、誰が役員になっても一定の作業ができるよう、そのマンション独自の運営方法が確立されています。

これは重要な強みです。

自主管理では、業務が特定の人の記憶や経験に依存しやすいため、書類や手順を整えることには大きな意味があります。

しかし、管理組合の運営は、作業を間違えずに処理することだけではありません。

修繕工事を実施するか、管理費を見直すか、滞納者へどのように対応するか、役員負担をどう分担するかといった問題では、組合員の意見が分かれます。

書類が整っていても、組合員がいくつかのグループに分かれ、互いの提案を内容ではなく「誰が言ったか」で判断している場合があります。

役員会で結論を出しても、反対する側が総会で覆そうとする。あるいは、過去の対立が残り、必要な修繕まで先送りされる。そのような状態では、日常業務は回っていても、管理組合としての意思決定は機能していません。

もちろん、派閥や対立があることだけで失敗と考えるべきではありません。

管理組合は、年齢、家族構成、資産状況、居住目的が異なる人々の集まりです。意見が違うのは当然です。

問題は、意見が違っても、事実を確認し、手続に沿って結論を出し、決まったことを実行できるかどうかです。

KTCでは、自主管理の成否を、帳簿や清掃の状態だけでは判断しません。

業務、意思決定、引継ぎの三つが、理事長や一部の有力者だけに依存せず機能しているかを確認します。

費用改定がきっかけとなった自主管理マンション

当社が現在、会計業務を受託している約60戸の自主管理マンションがあります。

この管理組合でも、役員や居住者の高齢化は進んでいました。

ただ、外部委託を検討した直接のきっかけは、役員のなり手不足ではなく、利用していた口座振替サービス手数料の大幅上げ改定でした。

従来と同じ方法を続けると、毎月の費用が数倍に増えるという通知が届いたのです。

ここで、当時の役員は、単に別の安い口座振替サービスへ変更することだけを考えませんでした。

仮に今回の費用改定を乗り越えたとしても、会計担当者の高齢化は今後も進みますし、次の担当者が見つかる保証もありません。

そこで、「会計業務だけでも、今のうちに外部へ出した方がよいのではないか」という判断に至りました。

この判断は、今から考えても合理的です。

しかし、総会は相当荒れました。

自主管理を長く続けてきた管理組合では、外部委託に対して、「自分たちの管理を否定された」「これまで無償で頑張ってきた人の努力を無駄にするのか」「管理会社へ頼めば費用だけが増える」といった反応が多くなります。

制度上では、会計業務を外部へ委託しても、管理組合が自主管理であることに変わりはありません。管理組合が意思決定を行い、外部事業者へ一部の業務を委託する形だからです。

しかし、現場では、単なる費用の問題ではなく、外部委託すること自体が「自主管理を続けるか、やめるか」という感情的な対立に置き換わることがあります。

ただ、今回の管理組合では、口座振替手数料の大幅改定という、誰にとっても分かりやすい外部要因がありました。

従来の方法を維持するにも費用がかかる。将来の会計担当者確保にも不安がある。それならば、この機会に会計処理の仕組みそのものを見直そうという説明ができました。

結果として、会計業務の外部委託は総会で決議されました。

成功を分けたのは、外部委託の時期だった

この事例で重要なのは、会計業務を外部へ委託したことではありません。

委託した時期です。

会計担当者が突然辞めた後でもなければ、帳簿が分からなくなった後でもありません。滞納管理が止まり、決算書が作成できなくなってからでもありません。

まだ管理組合に、自ら検討し、比較し、総会で決める余力が残っている段階で外部化しました。

自主管理マンションの相談では、この順序が逆になっていることがよくあります。

担当者が限界まで業務を抱え、体調不良や家庭事情を理由に突然退任する。その後で、他の役員が資料を確認すると、会計処理の方法が誰にも分からない。

その状態から外部委託を検討し始めた時点で、管理組合には十分な選択肢はありません。

費用、業務内容、契約条件を比較する余裕もなく、「すぐに引き受けてくれる会社」を探すこととなります。その結果、必要以上の範囲まで委託したり、反対に、費用を抑えるため必要な業務まで契約から外したりすることになりがちです。

問題が起きてから外部委託する場合、委託は管理体制の設計ではなく、応急処置になりやすいのです。

今回の管理組合では、費用改定という出来事を、単なる値上げ問題として処理しませんでした。

今後も同じ管理方法を続けられるのかという、運営体制の問題に置き換えて考えました。

その先見性が、自主管理を現在まで継続できている理由の一つです。

会計を外部化しても、意思決定は外部化しない

当社はこの管理組合から、会計業務を受託しています。

しかし、会計帳簿を作成し、報告書を提出するだけではありません。理事会へ出席し、会計状況を説明するとともに、今後検討すべき事項について助言しています。

ここで区別しなければならないのが、業務の代行と意思決定です。

会計処理、口座振替、支払管理、報告書作成は、専門事業者へ委託できます。

一方で、管理費を値上げするか、工事を実施するか、どの支出を優先するかを決めるのは、管理組合です。

外部事業者が選択肢を整理し、問題点を説明することはできます。しかし、最終的な判断まで外部へ預けると、自主管理ではなく、判断の外注になってしまいます。

この管理組合では、理事長は自分の役割を果たそうとし、各役員にも担当があります。役員全員が常に同じ意見というわけではありませんが、「自分たちが管理組合を運営する」という共通の姿勢があります。

当社の役割は、その姿勢に代わることではありません。

会計情報を分かる形にし、役員が判断しやすい材料を整え、必要な論点を示すことです。

人を出して業務を代行するだけでなく、管理組合が判断を続けられる体制をつくる。KTCが部分委託で重視しているのは、その点です。

総会出席率90%をどう見るか

この管理組合では、総会の出席率が90%を超えています。

積極的に質問する人ばかりではありません。それでも、多くの組合員が、総会に出席すること自体に意味があると考えています。

また、総会では理事長が当然に議長を務めるのではなく、その都度、人望があり、議事進行に適した人物を議長として選出しています。

これは、この管理組合に長く根付いてきた運営上の工夫です。

理事長という役職だけにすべてを集中させず、総会を進めるのに適した人を選ぶことで、理事長の負担を分散しています。

ただし、これらをそのまま他のマンションへ導入すれば成功するとは限りません。

出席率が高くても、議案の内容を理解せず、周囲に合わせて賛成しているだけかもしれません。人望のある議長に頼る方法も、その人物がいなくなれば続かなくなる可能性があります。

したがって、数字や形式だけでは評価できません。

出席率が高い理由は何か。反対意見を出せる雰囲気があるか。議長が交代しても議事進行できるか。議案の説明資料は、専門知識のない組合員にも理解できる内容か。

それらを確認して初めて、総会が機能しているかを判断できます。

この管理組合の場合、総会への参加、役員の役割分担、外部事業者の支援が組み合わさり、管理組合としての意思決定が維持されています。

全面委託が適している場合もある

この事例は、すべての自主管理マンションに会計業務だけの委託を勧めるものではありません。

会計を外部化しても、建物や設備の状態を把握する人がいなければ、修繕は進みませんし、建物維持はできません。

滞納者への対応方針が決まっていなければ、口座振替を外部化しても滞納は解消しません。

役員のなり手がおらず、理事会そのものが開催できない場合には、会計業務だけを切り離しても、管理組合の機能回復には不十分です。

そのような場合には、管理会社への全面委託、外部管理者方式、マンション管理士などによる運営支援も選択肢になります。

反対に、役員候補が一定数おり、引継ぎ資料も整い、専門知識が必要な場面だけ相談できる体制があれば、すべてを管理会社へ委託する必要はありません。

選択肢は、自主管理か全面委託かの二つだけではありません。

会計だけを委託する、清掃や点検だけを委託する、理事会支援を加える、数年かけて段階的に委託範囲を広げるといった方法があります。

重要なのは、「何を自分たちで続けたいか」だけでなく、「どういう形であれば次の役員も続けられるか」を基準に考えることです。

自主管理の成功とは、余力を残すことである

自主管理マンションの成功とは、すべての業務を組合員だけで行うことではありません。

自主管理という形式を守るために、一部の役員が無理を続けているのであれば、それは成功ではなく、問題が表面化していないだけです。

今回の管理組合が現在も機能しているのは、優秀な理事長が一人ですべてを処理しているからではありません。

問題が起きる前に会計業務を外部化し、役員がそれぞれの役割を持ち、組合員が総会へ参加し、最終的な判断を管理組合に残しているからです。

その体制にも限界はあります。今後さらに高齢化が進めば、追加の外部支援が必要になるかもしれません。

それでも、まだ余力のある段階で一部を外部化したことで、次の選択肢を検討する時間が残されています。

管理組合が次に確認すべきことは、現在、業務ができているかどうかだけではありません。

次の役員でも同じ方法を続けられるか。

特定の人が退任すると止まる業務はないか。

今後三年間で、最初に維持できなくなりそうな業務は何か。

外部へ委託した場合、どの業務を任せ、どの判断を管理組合に残すのか。

委託先との契約で、業務範囲と責任範囲が明確になっているか。

これらを、問題が起きる前に確認していく必要があります。

自主管理の成否を分けるのは、自分たちだけでどこまで頑張れるかということではありません。

自分たちが判断を続けるために、何を仕組みにし、何を外部の力に任せるか、という視点です。

株式会社関西建物センターでは、自主管理をやめることを前提とせず、会計業務、理事会支援、日常管理などを分けて考え、管理組合が継続できる体制を整理するご相談をお受けしています。

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