管理会社を変えれば、管理組合の問題は本当に解決するのか
「今の管理会社の対応が悪い。だから管理会社を変更したい」
管理組合から相談を受けると、話はこのように始まることがあります。
返答が遅い。理事会で決めたことが進まない。必要な説明や提案がない。管理組合が指摘しなければ動かない。こうした状態が続けば、管理会社の変更を検討するのは自然なことです。
しかし、実際の管理組合では、管理会社を変更すれば問題が解決するとは限りません。
今回KTCが支援した管理組合でも、表面上の問題は管理会社の対応でした。ところが、話を整理していくと、より深刻だったのは、管理会社の不足を長年にわたって理事長が補い続け、その状態が管理組合の通常運営として定着していたことでした。
この場合、管理会社だけを変えても、管理組合の運営構造が変わらなければ、別の形で同じ問題が繰り返される可能性があります。
管理会社変更を考えるとき、本当に問うべきなのは、「どの会社に変えるか」だけではありません。
「現在の管理組合は、特定の理事長がいなくても運営できる状態になっているか」という点です。
管理会社の問題が、理事長の努力によって見えなくなっていた
今回相談を受けた理事長は、もともと現在の管理会社の対応に問題を感じ、自ら立候補して理事長に就任した方でした。
管理会社から十分な説明がない。依頼したことが進まない。理事会で決めたことが担当者に正しく伝わらない。必要なときに管理会社から提案が出てこない。
こうした状態を放置できず、経験のある理事長が、自ら確認し、調べ、指示し、必要に応じて業者とも話をしてきました。
その結果、管理組合の運営は表面上、大きく崩れませんでした。
しかし、それは管理会社が適切に機能していたからではありません。理事長が管理会社の不足を補っていたからです。
さらに問題だったのは、その後の理事長候補が現れなかったことです。
自分が辞めれば、現在の管理会社では運営が不安定になる。次の理事長に、これまで自分が担ってきた調整や判断をそのまま引き継がせることも難しい。
そのため、本人の希望とは別に、長年にわたって理事長を続けざるを得なくなっていました。
この状況を、単純に「理事長が抱え込みすぎた」と評価するのは適切ではありません。
管理会社が十分に機能せず、他の役員や組合員にも問題が共有されず、代わりに担う仕組みもなかった。その結果として、責任感のある理事長に仕事が集中したと考えるべきです。
個人の性格の問題ではなく、運営体制の問題です。
一般組合員には、なぜ変更が必要なのかが見えない
理事長が管理会社の不足を補うほど、一般組合員からは問題が見えにくくなります。
清掃は行われている。会計報告も出ている。総会も開催されている。大きな事故も起きていない。
日常的に管理会社とやり取りをしていない組合員から見れば、「今まで普通に運営できていた」と感じても不思議ではありません。
そのため、管理会社変更の話が出ると、次のような疑問が生じます。
「今まで問題なく運営できていたのではないか」
「なぜ今、管理会社を変える必要があるのか」
「理事長がしっかりしているなら、このままでよいのではないか」
「委託業務内容が変わるのなら、変更しない方がよいのではないか」
これらは、管理会社変更に反対するための不合理な意見とは限りません。
組合員に必要な情報が届いていなければ、現状維持を選ぶのは当然です。
今回の管理組合でも、理事長は管理会社変更の必要性を理解していましたが、他の組合員には、その前提となる事実が十分に共有されていませんでした。
そのため、候補となる管理会社の比較以前に、「現在の管理会社の何が問題なのか」「理事長が何を補ってきたのか」「今のまま理事長が交代したら何が起こる可能性があるのか」というところから説明する必要がありました。
ここで重要なのは、理事長の不満をそのまま代弁することではありません。
理事長の個人的な評価と、管理組合として確認すべき事実を分ける必要があります。
例えば、「担当者の対応が悪い」という言葉だけでは、受け取り方に差が出ます。
一方で、依頼から回答までに何日かかったのか、理事会決議がどの段階で止まったのか、契約上予定されている業務が実施されたのか、理事長が代わりに行った作業は何か、という形に整理すれば、組合員が判断できる材料になります。
KTCが最初に管理会社探しをしなかった理由
この相談を受けたとき、KTCが最初に行うべきだと判断したのは、管理会社の一候補として応対することではありませんでした。
第一に、現在の理事長を補佐すること。
第二に、その理事長が将来交代できる管理体制をつくること。
この二つを先に置きました。
管理会社変更の相談を受けると、すぐに相見積もりや候補会社選定へ進みたくなります。しかし、管理組合側が自分たちの課題を整理できていなければ、候補会社を正しく比較できません。
管理委託費が安いか高いか。担当者の印象がよいか。説明資料が立派か。そうした点だけで判断すると、変更後に「思っていた内容と違った」ということが起こります。
今回の管理組合で、まず必要だったのは、理事長が頭の中に持っている問題を、他の組合員が理解できる形に変えることでした。
KTCは、理事長から事情を聞き、問題を次のように分けて整理しました。
一つ目は、管理委託契約上、管理会社に依頼している業務の問題です。
二つ目は、契約には明確に書かれていないものの、管理組合が管理会社に期待している支援の問題です。
三つ目は、理事長や役員が本来判断すべき管理組合運営上の問題です。
四つ目は、長年の不満や疲労によって、管理会社との関係が悪化しているという感情面の問題です。
これらを混同すると、「管理会社が全部悪い」という話にも、「理事長が細かすぎる」という話にもなりかねません。
実際には、契約の問題、業務遂行の問題、組合側の役割分担の問題、人間関係の問題が重なっています。
そのため、管理会社変更を結論として押し出すのではなく、何を改善するために変更を検討するのかを集会で具体的に説明しました。
出席率一割の集会で見えた、本当の課題
今回の集会への出席者は、全戸数の一割程度でした。
この出席率だけを見ると、管理会社変更を進めるのは簡単ではありません。
ただし、「出席者が少ないから、組合員は現状に満足している」と判断することもできません。
管理組合の集会に出席しない理由はさまざまです。
問題の存在を知らない。資料を見ても判断できない。理事長に任せておけば大丈夫だと思っている。自分が参加しても結論は変わらないと感じている。仕事や家庭の事情で参加できない。
今回、KTCが特に問題だと考えたのは、「理事長がしっかりしているから大丈夫」という認識です。
これは、理事長への信頼という点では悪いことではありません。
しかし、その信頼が、管理組合の運営を特定の人に任せきる理由になってしまうと、理事長が退任した後に大きな空白が生じます。
だからといって、すべての組合員に、理事長と同じ知識や労力を求めることも現実的ではありません。
KTCが必要だと考えるのは、全員が同じだけ働く体制ではなく、関与の段階を増やすことです。
役員になることは難しくても、アンケートには回答する。集会には出られなくても、資料には目を通す。専門知識がある人は、特定の課題だけ協力する。重要な判断については、必要な情報の開示を求める。
「役員になるか、何もしないか」という二択にしないことが重要です。
組合員の意識を、「理事長がしっかりしているから任せておけばよい」から、「できる範囲で協力する。そのために判断材料を示してほしい」へ変えていく必要があります。
この変化は、管理会社を変更するだけでは起こりません。
管理組合側が、情報の出し方と参加の仕組みを変える必要があります。
管理会社を変えないという選択肢もある
現在の管理会社に問題があるからといって、必ず変更しなければならないわけではありません。
担当者の変更を求める。管理会社の上席者を交えて改善協議を行う。依頼事項と期限を記録する。契約業務の実施状況を確認する。管理委託契約の範囲を見直す。一部の業務だけを別の専門家へ依頼する。
こうした改善策で対応できる場合もあります。
特に、問題の中心が特定の担当者にある場合や、管理組合側から依頼内容が明確に伝わっていない場合は、会社を変更する前に改善の余地があります。
一方で、改善を何度求めても変化がない、会社として必要な支援体制がない、管理組合が必要とする業務と管理会社の方針が合っていない、理事長の補完がなければ業務が進まない、といった状態であれば、変更を検討する合理性があります。
大切なのは、「現管理会社を残すか、変更するか」という二択にしないことです。
現在の管理会社を改善する。
業務の一部を外部化する。
理事会運営だけを支援してもらう。
管理委託契約の範囲を組み替える。
管理会社を変更する。
これらを、管理組合が解決したい問題に照らして比較する必要があります。
管理会社変更は、有力な選択肢の一つですが、唯一の解決策ではありません。
目標は、優秀な理事長を探すことではない
この管理組合の問題を、「次の優秀な理事長が見つかれば解決する」と考えると、再び個人依存が続きます。
経験があり、説明が上手で、管理会社と交渉でき、修繕や会計にも詳しく、長時間を管理組合活動に使える人を毎期確保することは困難です。
目指すべきなのは、特別に優秀な人でなくても、一定水準で理事長を務められる体制です。
そのためには、少なくとも次の準備が必要です。
管理会社への依頼と回答が記録されていること。
継続課題が一覧化されていること。
理事長だけでなく、他の役員も必要な資料を確認できること。
管理会社が行う業務と、管理組合が判断する事項が分けられていること。
次の役員に引き継ぐ資料が残っていること。
困ったときに相談できる相手がいること。
理事長の負担を減らすとは、仕事をすべて管理会社へ渡すことではありません。
誰が何を判断し、誰が何を実行し、どの情報をどこに残すかを整理することです。
KTCが考える「管理体制を設計する」とは、まさにこの部分です。
人を一人追加することでも、管理会社を一社入れ替えることでもありません。
理事長が交代しても、必要な情報と判断の手順が残り、管理組合の運営が止まらない状態をつくることです。
管理会社変更を考える前に確認すべきこと
管理会社の変更を検討している管理組合は、候補会社へ見積もりを依頼する前に、次の点を確認する必要があります。
現在の管理会社の何が問題なのか。
その問題は、契約内容の問題なのか、業務遂行の問題なのか、担当者の問題なのか。
現在の理事長や役員が、管理会社の代わりに何を行っているのか。
理事長が退任した場合、その仕事は誰が担うのか。
現在の管理会社に改善を求める余地は残っているのか。
管理会社変更以外に、一部業務の外部委託や理事会支援という選択肢はないか。
新しい管理会社に何を求め、管理組合側に何が残るのか。
これらを整理したうえで初めて、管理会社変更の必要性を他の組合員に説明でき、候補会社を比較できるようになります。
管理会社を変更すれば、担当者や業務体制は変わります。
しかし、理事長一人が情報を持ち、問題を抱え、説明し、判断する構造が残れば、管理組合の問題は根本的には解決しません。
管理会社変更の本当の目的は、現在の会社への不満を解消することだけではありません。
特定の理事長の能力と献身がなければ成り立たない管理組合運営を、次の人へ引き継げる形に変えることです。
KTCでは、管理会社変更を前提に話を進めるのではなく、まず現在の問題を整理し、理事長の説明を補佐し、役員が交代しても運営を続けられる体制づくりから支援しています。

