自主管理マンションで、最初に限界を迎えるのは理事長とは限らない
自主管理マンションの問題というと、よく「理事長のなり手がいない」「役員が高齢化している」といった話が出ます。
もちろん、それも大きな問題です。
しかし、実際に自主管理マンションに関わっていると、理事長より先に限界を迎えている人がいることがあります。
会計担当者です。
「もうそろそろ会計を誰かに代わってもらいたい」
そう思って理事長に相談しても、
「では、次の人を探しましょう」となる。
ところが、誰も手を挙げない。
すると今度は、
「管理会社に頼むしかないのではないか」という話になる。
見積りを取ると、管理員、清掃、会計、理事会支援などを含む一括管理の提案が出てきて、年間費用を見た理事会が、
「そこまでのお金は払えない」と判断する。
そして結局、
「もう少しだけお願いします」と、これまでの会計担当者に仕事が戻ってくる。
自主管理マンションでは、このようなことが起こります。
問題なのは、会計担当者本人の頑張りが足りないことではありません。
会計という仕事の負担が、周囲から見えにくいことです。
会計は「帳簿をつける仕事」だけではない
管理組合の会計について、
「毎月入ってきたお金と出ていったお金を記録するだけでしょう」
というイメージを持っている人は少なくありません。
実際には、それだけでは終わりません。
管理費や修繕積立金が入金されているかを確認する。
請求書と支払い内容を照合する。
業者への支払いを行う。
管理費会計と修繕積立金会計を区分する。
滞納があれば把握する。
決算時には一年間の数字を整理する。
総会では、その数字について質問されることもあります。
さらに、自主管理マンションでは、正式な「会計業務」として決められていない仕事まで、会計担当者に集まっている場合があります。
例えば、
「この請求書は払ってよいのか」
「この修繕費はどちらの会計から出すのか」
「去年はこの費用をどう処理したのか」
「この業者への支払いは誰が承認したのか」
といった確認です。
つまり、帳簿をつけているだけのつもりが、いつの間にか管理組合のお金に関する相談窓口になっている。
ところが、それは理事長のように住民の前に立つ仕事ではありません。
問題が起きなければ、誰からも見えません。
だからこそ、限界になるまで負担が表面化しにくいのです。
「もうできない」と言われてから後継者を探しても遅い
ある小規模な自主管理マンションを想像してみてください。
長年、ひとりの組合員が会計を担当してきました。
毎月決まった日に通帳を確認し、支払いを行い、Excelに入力し、請求書をファイルする。
年に一度は決算資料を作る。
本人にとっては慣れた仕事です。
そのため、周囲から見ると、
「毎年きちんとできている」ように見えます。
しかし、それは仕組みとして安定しているのではありません。
その人ができるから回っているだけかもしれません。
ここは、自主管理マンションを見る際に非常に重要な点です。
例えば、次の担当者に、
「このファイルを見れば分かります」
と引き継いでも、実際には分からない。
どの請求書をいつ払うのか。
例外的な支払いをどう判断するのか。
未収金が出たとき誰に連絡するのか。
決算時にどの数字をどこへ転記するのか。
こうしたことが担当者の頭の中にしかなければ、引継ぎは非常に難しくなります。
すると、
「誰でもいいから次の人を決めよう」という話になりがちです。
しかし、本当に必要なのは人探しでしょうか。
人を探す前に、
そもそも次の人が引き継げる仕事になっているかを確認する必要があります。
管理会社の見積りが高いから、自主管理を続けるしかないのか
後継者が見つからない。
そこで管理会社に相談する。
これは自然な流れです。
ところが、多くの管理会社は、会計だけではなく管理業務全体の受託を前提にしています。
これは管理会社の都合だけでそうしているとは限りません。
管理業務は相互につながっているからです。
例えば会計だけを受託しても、
「この支払いは誰が承認するのか」
「滞納者への督促は誰が行うのか」
「修繕工事の契約内容は誰が確認するのか」
といった問題が生じます。
業務の一部分だけを引き受けるほど、管理会社と管理組合の責任範囲を細かく決めなければなりません。
管理会社からすれば、一括管理の方が責任範囲を整理しやすく、標準化もしやすい。
そのため、一括受託を基本としている会社にも合理的な理由があります。
しかし、ここで管理組合まで、
「一括で頼めないなら、今までどおり全部自分たちでやるしかない」と考える必要はありません。
その二つの間には、まだ検討できることがあります。
第三の選択肢は、「部分委託」そのものではない
ここで「では会計だけ管理会社に頼めばよい」と考えると、話は少し単純すぎます。
KTCが重要だと考えるのは、部分委託そのものではありません。
その前に、
現在の仕事を分解することです。
例えば、これまで一人の会計担当者が行っていた仕事を分けてみます。
入金確認。
会計入力。
請求書の整理。
支払い手続き。
支払いの承認。
未収金の確認。
決算資料の作成。
総会での会計報告。
これらは、必ずしも同じ人が全部行う必要はありません。
例えば、
会計入力と決算書作成は外部へ出す。
請求書の承認は理事長が行う。
支払い手続きは決められた方法に統一する。
未収金が出た場合の対応手順もあらかじめ決めておく。
そうすれば、管理組合側の会計担当者は、
「数字を作る人」ではなく、
「管理組合として数字を確認する人」へ役割を変えられる可能性があります。
自主管理を全面的にやめる必要もありません。
これまでのやり方を、そのまま次の人へ押しつける必要もありません。
これが、自主管理と全面委託の間にある第三の選択肢です。
ただし、その本質は「一部だけ外注すること」ではありません。
人に合わせて仕事を引き継ぐのではなく、人が変わっても続く形に仕事を組み替えることです。
自主管理を続けてきた経験は、捨てるものではない
自主管理マンションには、自主管理だからこそ蓄積されているものがあります。
長年付き合っている清掃業者がいる。
建物について非常に詳しい住民がいる。
設備故障時の連絡先を把握している人がいる。
総会の進め方も住民が理解している。
これらは管理組合の運営資産です。
管理会社へ委託するからといって、すべて捨てる必要はありません。
むしろ、自主管理を長く経験してきた管理組合ほど、
「自分たちでできること」と、
「もう自分たちで持たない方がよいこと」を分けて考えられる余地があります。
ただし、自主管理を経験してきたから必ず運営能力が高い、とも限りません。
実際には、一人の理事長や会計担当者に依存していただけという場合もあります。
重要なのは、「何年間自主管理を続けてきたか」ではありません。
誰か一人が抜けても、管理が続く状態になっているかどうかです。
ここを基準に考えた方が、自主管理を続けるべきかどうかも判断しやすくなります。
会計担当者から「そろそろ代わってほしい」と言われたら
もし現在の会計担当者から、
「そろそろ代わってほしい」と言われたら、
すぐに次の担当者を探す前に、一度確認してみてください。
「具体的に、何が一番大変ですか」
毎月の入力なのか。
銀行へ行くことなのか。
決算書を作ることなのか。
滞納の確認なのか。
間違えてはいけないという精神的な負担なのか。
ここを聞かないまま、
「では次の人を探します」
としてしまうと、同じ仕事を別の人に移すだけになってしまいます。
そして数年後、また同じ問題が起きます。
逆に、
「もう全部管理会社に任せましょう」
と一気に進めれば、これまで住民が無理なく続けてきた仕事まで外注することになり、管理費が大きく増えることもあります。
自主管理をやめるか。
頑張って続けるか。
その判断をする前に、
現在の管理の中で、どの仕事が、誰の負担によって成り立っているのか。
一度そこを見える形にすることをおすすめします。
会計担当者の「もうできない」という一言は、単なる担当者交代の話ではありません。
それまで見えなかった管理体制の弱点が、初めて表面に出たサインかもしれません。
KTCでは、自主管理マンションからのご相談についても、最初から全面委託を前提にするのではなく、現在誰が何を担っているのかを確認し、残す仕事と外部化する仕事を整理するところから考えています。
自主管理を続けるかどうかを決める前に、まず現在の仕事を見えるようにする。
それだけでも、選べる方法は大きく変わってきます。

