自主管理マンションで一番怖いのは、役員不足ではない―うまくいっている管理ほど属人化する
自主管理マンションについての相談を受けると、「役員のなり手がいない」という話がよく出てきます。
高齢化が進んだ。輪番制が回らない。理事長を引き受ける人がいない。会計のできる人がいない。
もちろん、どれも重要な問題です。
しかし、では「報酬を支払うなどして、役員を増やしましょう」と考えるのは早計です。
その前に、現在の管理組合の仕事が、実際には誰によって動いているのかを確認する必要があります。
例えば、規約上の理事が5人いても、実際の業務を一人の理事長と一人の会計担当者だけが支えていることがあります。
反対に、役員は3人しかいなくても、会計、修繕、契約、記録が整理され、必要な部分だけ外部を使うことで安定しているマンションもあります。
つまり、自主管理マンションで本当に怖いのは、単純な「人数不足」ではありません。
管理を支えている機能が、知らないうちに特定の人の中へ集まっていくことです。
しかも、この問題は、管理がうまくいっていないマンションより、長年うまく自主管理を続けてきたマンションの方が見えにくい傾向にあります。
うまくいっているからこそ、「できる人」に仕事が集まる
自主管理を始めた当初は、多くの管理組合が公平な役割分担を考えます。
理事長、副理事長、会計、監事、修繕担当、広報担当などを置き、輪番制などで多くの組合員が参加する。
ところが、長年管理組合運営を続けていると、それぞれの得手不得手が分かってきます。
数字に強い人は会計を担当する。
建築や設備に詳しい人は工事を見る。
文章を書くのが得意な人は総会資料を作る。
業者との交渉が得意な人が窓口になる。
実際、この方が効率がよいことから、徐々に翌年も同じ人にお願いすることになります。
本人も、「他にできる人がいないのであれば」と引き受けます。
これが5年、10年と続く。
この状態だけを見て、「同じ人が長期間役員をしているのは問題だ」と判断するわけではありません。
10戸、20戸程度の小規模マンションでは、毎年すべてを輪番で交代させることが合理的とは限らないからです。
経験のある人が続けることには明確なメリットがあります。
私たちが問題と考えるのは、長期就任そのものではありません。
その人がいなくなったとき、仕事だけでなく、判断までできなくなる状態になっていることです。
「仕事が止まる」と「判断できなくなる」は別の問題
ここは、自主管理マンションの引継ぎを考えるうえで非常に重要です。
例えば、毎月の支払い方法についてマニュアルがあれば、別の人でも振込みはできるかもしれません。
しかし、
「そもそも、なぜこの業者と契約しているのか」
「この金額は妥当なのか」
「以前、別の業者に変更しようとして何があったのか」
までは分からないことがあります。
修繕についても同じです。
過去の議事録に、「給水設備改修について継続審議とする」と記録されていても、
なぜ見送ったのか。
資金不足だったのか。
工事内容に問題があったのか。
別の工事を優先したのか。
住民間で意見が割れたのか。
こうした判断の背景まで残っているとは限りません。
私たちは、管理体制を見るときに、「作業を誰がしているか」だけではなく、
誰が知っているのか。
誰が判断できるのか。
その判断根拠はどこに残っているのか。
まで確認する必要があると考えています。
書類は管理組合に残っていても、管理の履歴と判断基準が一人の頭の中にしかない。
これが、本当の意味での属人化です。
善意で続けた人ほど、最後に疑われることもある
属人化には、もう一つ厄介な問題があります。
人間関係です。
長年、理事長や会計担当を続けている人の中には、自分から積極的に役職を独占したいと考えているわけではなく、
「誰もやらないから」
「自分が辞めると困るから」
という理由で続けている人がいます。
ところが、周囲から見える景色は少し違います。
「なぜ、ずっと同じ人が会計をしているのか」
「いつも同じ業者に頼んでいる」
「理事長が全部決めているのではないか」
という疑問が出てくることがあります。
長期就任だからチェックが不要という意味ではありません。
管理組合のお金を扱う以上、会計や契約について一定の透明性を確保することは必要です。
しかし、ここで制度上の問題と、人間関係の問題を混同すると話がおかしくなります。
規約に基づいて適正に役員が選任されているかという話。
契約や会計が適正に処理されているかという話。
実際の仕事が一人に集中しているという話。
長年担当している人に対する不公平感や疑念という話。
これは、それぞれ別の問題です。
全部を「長期役員が悪い」という一言で処理してはいけません。
むしろ、善意で仕事を抱え続けた結果、その人しか分からないことが増え、辞めることができなくなり、最後には「なぜあの人だけが長くやっているのか」と疑われる。
これは、本人にも管理組合にも望ましい状態ではありません。
問題なのは人ではなく、人に依存する形を放置した管理体制です。
KTCが見るのは「役職表」ではなく「管理機能表」
自主管理マンションから相談を受けたとき、役員名簿だけを見ても、実際の管理体制は分かりません。
重要なのは、管理組合に必要な機能を分解してみることです。
例えば、
会計処理は誰がしているのか。
通帳や印鑑は誰が管理しているのか。
滞納状況は誰が把握しているのか。
契約書はどこにあるのか。
設備業者との連絡先は誰が持っているのか。
過去の修繕履歴を説明できるのは誰か。
次に修繕しなければならない設備を誰が把握しているのか。
総会資料は誰が作っているのか。
住民間の過去の経緯を知っているのは誰か。
そして、それぞれについて、
担当者が明日いなくなった場合、代わりにできる人がいるかを確認します。
ここで重要なのは、「役員を何人増やせばよいか」と考えることではありません。
管理機能ごとに、
住民が引き続き担当する。
副担当者を置く。
手順を文書化する。
データを共有する。
会計だけ外部へ出す。
修繕履歴の整理だけ専門家に依頼する。
業者対応を外部へ任せる。
といった形で、対策を分けることです。
これが管理体制を設計するという考え方です。
管理会社へ全部任せれば、属人化がなくなるわけではない
ここで、「それなら管理会社へ全部任せればよい」と考えることもできます。
それも一つの選択肢です。
特に会計、出納、設備管理、総会支援などを住民だけで維持することが難しくなっているマンションでは、管理会社への委託によって負担が大きく下がることがあります。
ただし、全面委託すればすべて解決するとは限りません。
今度は、
「管理会社しか過去の経緯を知らない」
「担当者が変わると話が通じない」
「管理会社から提案されたことを管理組合側で判断できない」
という別の依存が生まれる可能性があります。
これは、自主管理から管理会社管理へ変わっただけで、属人化の場所が移ったにすぎません。
したがってKTCでは、
何を外部へ任せるかと同時に、何を管理組合側に残すかを考えることが重要だと考えています。
管理会社の仕事と、管理組合自身が判断すべきことを混ぜてしまうと、管理会社に委託した後でも、別の問題が起きます。
自主管理を続ける。
一部だけ外部化する。
会計だけ委託する。
管理会社へ全面委託する。
長期役員を残しながら副担当者を育てる。
どれか一つが正解なのではありません。
マンションの戸数、住民構成、資金、建物の状態、現在の役員の負担によって、適した形は変わります。
危機が起きてからでは、管理組合の選択肢が減る
もっとも避けたいのは、中心人物が続けられなくなってから動き出すことです。
例えば、
会計担当者が突然退任した。
理事長が体調を崩した。
通帳や契約書の所在が分からない。
誰に何を頼んでいるのか整理されていない。
修繕履歴も一冊のファイルと担当者の記憶だけ。
その状態になってから、「来月から管理してくれる会社を探したい」となる。
この場合、管理会社側にも現状を把握する時間が必要です。
資料が整理されていなければ、引継ぎ作業も増えます。
短期間で受託できる会社が限られれば、比較できる条件も少なくなります。
これは「管理会社に足元を見られる」というより、管理組合自身が十分に比較し、判断するための時間を失っている状態です。
反対に、現在の役員が元気で、自主管理も普通に回っている段階なら、
今のまま続けるのか。
数年かけて引き継ぐのか。
会計だけ先に外へ出すのか。
記録だけ整理するのか。
将来的に管理会社へ委託するのか。
落ち着いて選ぶことができます。
だから、体制を見直すのは、管理が壊れてからではなく、まだうまくいっているときなのです。
まず「この人が明日いなくなったら何が止まるか」を書き出す
自主管理マンションの役員不足を考えるとき、次の理事長候補を探す前に確認してほしいことがあります。
それは、現在の理事長や会計担当者が、明日から3か月間管理に関われなくなった場合、何が止まるのかという点です。
支払いが止まる。
会計が分からなくなる。
業者への連絡ができない。
修繕の経緯が分からない。
総会資料が作れない。
銀行手続きができない。
過去のトラブルを説明できない。
こうしたものを書き出してみてください。
次に、それぞれについて、
誰かに引き継ぐのか。
記録を残すのか。
副担当者を置くのか。
外部化するのか。
仕組みそのものをやめるのか。
を考えます。
これだけでも、「役員が足りない」という漠然とした問題が、具体的な管理体制の問題に変わります。
自主管理マンションで一番怖いのは、役員不足ではありません。
役員不足が表面化するその日まで、管理が特定の人に依存していることに気づかないことです。
長年頑張ってきた理事長や会計担当者に、さらに「後継者まで育ててください」と責任を負わせるわけにはいきません。
重要なのは、個人の献身を増やすことではなく、個人の献身がなくても続く形へ少しずつ変えていくことです。
KTCでは、自主管理をやめることを前提にせず、現在の管理機能を整理し、住民が残す仕事、外部へ出す仕事、記録として残すべきことを分けながら、管理体制そのものを考える支援を行っています。
自主管理がまだうまくいっている今こそ、一度、「誰が何を知っているか」を確認してみてください。
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