管理委託費が値上がりするのに、管理業務まで減らされる――理事会はどう判断すればよいか
管理会社から、契約更新にあたって管理委託費の値上げを申し入れられた。
値上げに応じられないのであれば、管理員の勤務日数を減らす、あるいは理事会への出席回数を減らすという。
場合によっては、管理委託費を値上げしたうえで、一部の業務まで削減するという提案もあった。
「費用は高くなるのに、管理サービスは悪くなるのか」
そう感じる理事長や役員の方もいらっしゃるでしょう。
さらに心配なのは、今年の値上げに応じたところで、来年も同じような条件を提示されたらどうすればよいのか、というところです。
管理会社にも人件費の上昇や人材不足などの事情はあります。しかし、それだけで管理組合がすべての条件を受け入れる必要はありません。
一方、値上げに反対して、すぐに管理会社変更へ進むことは最善とは言えません。
私たちが大切だと考えているのは、今回の契約更新をどう乗り切るかという問題と、来年以降も管理組合が主体的に管理を続けられるかという2つの問題を、考えることです。
今回の条件交渉は、ある程度の妥協が必要かもしれません。
しかし、その後も管理会社から条件を提示されるたびに対応するだけでは、管理組合はいつまでも受け身の立場になってしまいます。
では、理事会は何から確認すればよいのでしょうか。
1.最初に確認するのは、管理委託費ではなく、管理費会計の現状
管理会社から値上げを求められたとき、管理組合として最初に確認していただきたいのは、管理費会計の現状です。
ここでいう管理費とは、区分所有者が毎月管理組合に支払う管理費のことです。
管理組合が管理会社へ支払う管理委託費とは、別のものです。
マンションの修繕積立金については、長期修繕計画に基づいて、これまで何度か増額してきた管理組合も多いと思います。
一方、管理費については、竣工以来、ほとんど金額を変更していないマンションも少なからずあります。
数十年前に設定された管理費の金額で、現在も運営している場合です。
しかし、この間に管理員の人件費、設備点検費、清掃費、保険料など、管理に必要な費用は大きく変化しています。
管理会社への委託費だけでなく、管理組合全体の支出を、まずは確認しなければなりません。
例えば、管理費会計が毎年黒字であっても、駐車場使用料収入に大きく依存しているマンションでは、駐車場の空きが増えると収支が悪化します。
駐車場使用料などは修繕積立金会計に計上すべきというのは、こういったことが理由の一つです。
また、過去の剰余金を取り崩しながら運営しているのであれば、そもそも現在の管理費収入だけでは支出を賄えていないことになります。
まずは、管理費会計の収入と支出が、今後も安定して維持できるのかを確認する必要があります。
ただし、ここで注意すべきことが一つあります。
管理組合の管理費が不足していることと、管理会社の値上げ要求が妥当であることとは、別の問題です。
管理費を増額する必要があったとしても、当然、管理会社から提示された金額をそのまま認める理由にはなりません。
逆に、管理費会計に十分な余裕があるからといって、値上げ要求を検討せず受け入れてよいわけでもありません。
管理費会計の持続可能性を確認したうえで、管理会社との交渉に進むことが大切です。
2.今回の契約更新では、受け入れられる条件を先に整理する
管理会社から値上げを求められたとき、すぐに他社の見積りを取得する管理組合もあります。
もちろん、それも有効な方法です。
しかし、契約終了までの期間が短い場合、新しい管理会社を探し、契約内容を比較し、総会で承認を得て、業務を引き継ぐには時間が必要です。
小規模マンションでは、見積りを依頼しても、希望する条件で受託してくれる会社が見つからないこともあります。
そのため、まず理事会で確認しておきたいのは、現在の管理会社との契約を継続する場合、どの条件まで受け入れられるのかということです。
例えば、管理委託費を増額しても、管理員の勤務日数は維持したい。
管理員の勤務日数は減らしてもよいが、ゴミ収集日の清掃は維持したい。
理事会への出席回数は減らしてもよいが、工事の説明や重要な議題については出席してほしい。
このように、金額だけでなく、必要な業務と組み合わせて交渉条件を整理します。
管理会社に対しても、単に値上げの理由を尋ねるだけではなく、どの業務の費用が増加しているのか、削減対象となる業務は何か、削減後はどのような対応になるのかを確認します。
管理会社が社内の原価や利益のすべてを開示できるとは限りません。
しかし、管理組合が契約内容を判断するための説明は必要です。
そのうえで、現実的な交渉条件をまとめていきます。
場合によっては、不本意であっても、今回の更新では一定の値上げや業務削減を受け入れる判断も必要かもしれません。
問題はその後です。
「今回は仕方がない」と更新して、そのまま1年間が過ぎてしまえば、次回も同じ交渉を繰り返すことになりかねません。
そのため、今回の更新条件を受け入れる場合には、次回更新までに管理組合として管理内容を見直すことを、あわせて決めておくことが重要です。
なお、管理委託契約の締結や管理費の改定には、管理規約などに基づく決議手続きが必要です。
また、管理委託費の増額や業務内容の縮小を伴う契約更新では、マンション管理適正化法に基づく重要事項説明の手続きも確認する必要があります。
交渉上の妥協と、契約上の手続きは分けて考えなければなりません。
3.契約書に書かれている仕事と、実際に行われている仕事は大抵違う
契約を更新した後、管理組合が最初に取り組むべきことは、現在の管理業務の実態を把握することです。
もちろん、管理委託契約書や仕様書を確認することは必要です。
管理員の勤務日数、清掃業務の範囲、設備点検の回数、理事会への出席回数などを整理します。
しかし、私たちが実務上、特に重要だと考えているのは、その先にあります。
それは、契約書に記載されている業務と、実際にマンションで行われている仕事が、必ずしも一致しないことです。
例えば管理員業務です。
契約書には受付業務や巡回業務、報告連絡業務などと記載されていても、実際には居住者からさまざまな相談を受けていることがあります。
共用廊下の照明が切れている。
ゴミ置場に粗大ごみが放置されている。
エントランスの自動ドアの調子が悪い。
そのような連絡があるたびに、管理員が現場を確認し、管理会社へ報告しているかもしれません。
また、ゴミ収集後の清掃についても、決められた場所を清掃するだけなのか、散乱したゴミの整理や分別不良への対応まで行っているのかによって、実際の業務量は異なります。
フロント担当者についても同じです。
理事会の議題整理、工事業者との連絡調整、見積書の内容確認、役員への説明など、契約書だけでは具体的な作業量が見えにくい部分があります。
逆に、契約書上は予定されている業務が、十分に実施されていない可能性もあります。
ここで重要なのは、契約書に書かれていない仕事を、すべて管理会社の義務と考えないことです。
管理員や担当者が、長年の慣行や個人的な配慮によって行ってきた仕事もあるはずです。
そのような業務を継続してほしいのであれば、今後は契約上の業務として明確にする必要があるかもしれません。
一方、実際には必要性が低くなっている仕事もあるでしょう。
契約上の業務、実際に行われている業務、管理組合が必要としている業務。この三つを区別することが、管理仕様の見直しの出発点になります。
4.管理員の勤務日数を減らすなら、仕事の受け皿を先に決める
例えば、管理員の勤務日数を週5日から週3日に減らす提案があったとします。
ここで「2日分の人件費が削減できる」と考えるだけでは不十分です。
管理員が勤務しない2日間に、どのような仕事が発生しているのかを確認しなければなりません。
特に重要なのが、住民からの連絡と、その後の現場対応です。
例えば、共用廊下の照明が切れているという連絡があった場合を考えてみましょう。
管理員が常駐していれば、その日のうちに状況を確認できるかもしれません。
しかし、週1回の巡回管理に変更した場合はどうでしょうか。
管理組合や居住者から不具合の連絡を受け、次回の巡回時に確認し、必要に応じて照明を交換することになります。
ただし、避難経路や階段など、安全性に影響する場所であれば、次回巡回まで待たずに対応する必要があります。
つまり、単に巡回回数を決めるだけではなく、不具合の内容によって対応方法を変える仕組みが重要です。
KTCでは、過去に管理会社から巡回点検業務を受託し、協力会社が現地を巡回して報告書を作成する業務を行っていました。
その際、協力会社は巡回と報告を担当し、KTCは報告された不具合について、管理会社へどのように伝えるべきかを判断していました。
この経験からも、現場を見る仕事と、報告内容を整理して次の対応につなげる仕事は、分けて考えることができます。
しかし、この方法ですべての管理員業務を代替できるわけではありません。
日常的な住民対応が多いマンションや、設備の不具合が頻繁に発生するマンションでは、巡回方式だけでは対応が難しい場合もあります。
大切なのは、管理員が担っている仕事を具体的に把握し、継続が必要な業務をどのような方法で実施するかを検討することです。
また、管理員の勤務日数を減らした結果、管理会社に代わって理事長が住民からの連絡を受けるようになるのであれば、単なる負担の移転となります。
そうならないために、不具合の連絡先、現場確認の担当者、緊急時の対応方法、修理の発注権限などを、あらかじめ決めておく必要があります。
5.理事会への出席回数を減らせば、理事会の負担が増える?
管理会社から、理事会への出席回数を減らす提案があった場合も同じです。
例えば、年12回の出席を年6回に減らすとします。
その際、理事会への出席回数が半分になれば、管理会社の仕事も半分になるのでしょうか。
実際には、そうとは限りません。
理事会への出席時間そのものより、議案の準備、業者との調整、資料の作成、議事録案の作成などに多くの時間を要している場合もあります。
毎月の理事会で報告だけを受けているマンションであれば、出席回数を減らしても大きな問題が生じないかもしれません。
しかし、管理会社の担当者が議題を整理し、理事会の進行を支えている場合には、出席回数を減らすことで、役員の負担が増える場合があります。
そのため、出席回数を減らす前に、次のような点を確認したいところです。
理事会で毎回判断しなければならない議題は、どの程度あるのか。
管理会社が出席しない場合でも、議題や資料は事前に提出されるのか。
役員からの質問に対する回答方法はどうなるのか。
必要な場合に、臨時の出席を依頼できるのか。その費用はいくらなのか。
こうした条件が整理されていれば、理事会への出席回数を減らすことが合理的な場合もあります。
反対に、出席回数だけを減らし、議題整理や業者調整まで役員に任せるのであれば、管理組合として受け入れられるかどうかを慎重に判断する必要があります。
ここでも重要なのは、理事長個人の能力に頼らないことです。
現在の理事長が詳しいから運営できる、という状態では、次の役員が就任したときに同じ管理を続けられなくなります。
6.管理組合が求めるサービスと費用を、もう一度整理する
管理の実態が把握できたら、次に行うのは、必要なサービスの整理です。
このとき、現在の管理委託契約の業務項目だけで考えるのではなく、居住者に役員が実際にヒアリングすると確実です。
区分所有者が多く居住しているマンションであれば、複数の居住者から意見を聞けるので有効です。
ただし、管理員と日常的に接する居住者の意見だけでは偏ってしまいます。
管理員がいることに安心感を持つ方もいれば、管理員をほとんど利用していない方もいるからです。
また、投資型マンションなどでは、管理費を負担している区分所有者と、実際のサービスを利用する居住者が異なるため、注意が必要です。
そして、住民の意見だけでなく、管理員の日誌、清掃状況、管理会社への問い合わせ、設備の不具合報告なども確認します。
その結果を踏まえて、業務を三つに分けてみます。
第一は、継続しなければならない業務です。
法令上必要な設備点検や、安全性の確保に関わる業務などが該当します。これらは費用だけを理由に安易に削減できません。
第二は、実施方法を変更できる業務です。
例えば、常駐管理員による確認を定期巡回に変更する、理事会への出席を重要な議題のある場合に絞る、といった方法です。
ただし、代替方法が実際に機能することが条件です。
第三は、必要性そのものを見直せる業務です。
長年続けているものの、現在は利用されていないサービスや、実施頻度が過剰になっている業務がないかを確認します。
ここで注意したいのは、必ずしも削減することが目的ではないということです。
調べた結果、現在の管理員の勤務日数が必要だとわかれば、費用を増やしてでも維持する判断は合理的です。
一方、不要な業務を減らし、必要な業務に費用を振り向けることもできます。
また、一部の業務を専門業者に直接委託する方法もありますが、複数の業者との連絡や調整が増えれば、かえって管理組合の負担が大きくなる可能性もあります。
管理会社を変更する場合も同様です。
金額だけでなく、必要な管理業務を継続できるか、役員の負担がどう変わるかまで比較して判断する必要があります。
7.次回の契約更新までに、管理組合は何を準備しておくべきか
最後に、管理会社との契約を今回更新した後、管理組合として何をしておくべきかを整理します。
大切なのは、次の更新交渉が始まるまでに、必要な情報をそろえておくことです。
例えば、1年間の契約であれば、次のような進め方が考えられます。
更新後1~3か月は、現状の確認です。
管理費会計の収支を確認し、現在の契約書と、管理員やフロント担当者が実際に行っている業務を照らし合わせます。
4~6か月目は、必要な業務の整理です。
継続すべき業務、実施方法を変更できる業務、見直せる業務を区分し、変更した場合の費用と役員・居住者への影響を検討します。
その後は、次回更新に向けた条件の検討です。
必要な管理内容と予算の案をまとめ、契約上の申入期限に間に合うよう、現在の管理会社との協議を始めます。
必要であれば、同じ管理条件で他社から見積りを取得することも考えます。
ただし、契約期間や解約の申入期限によっては、もっと早く判断する必要も生じます。
また、管理会社が契約更新自体を拒否している場合は、次回の交渉準備より、管理業務を途切れさせないための対応を優先しなければなりません。
大切なのは、管理会社から次の条件を提示されるまで、何もしない状態に戻らないことです。
今回の値上げにどう対応するかは、もちろん重要です。
しかし、それよりも肝心なのは、翌年も、その翌年も、管理会社から提示される条件だけで管理組合の運営方針が決まってしまわないようにしておくことです。
そのためには、理事長一人が管理業務を詳しく理解するのではなく、理事会として情報を共有し、役員が交代しても判断できる状態が望ましいと言えます。
管理委託費の値上げをきっかけに、管理会社に何を任せるべきか、管理組合として何を維持すべきかを考え直す。
そして、次の契約更新では、管理組合自身が必要な管理内容と費用を提示できるようにする。
その第一歩は、契約書の内容だけでなく、現在のマンションで誰がどのような仕事をしているのか、その現実を把握することです。
株式会社関西建物センター(KTC)では、小規模マンションを中心に、管理委託契約の内容や現場の管理実態を整理し、管理組合が継続できる管理体制を考えるご相談に対応しています。

