C02 管理事務所の書類をすべて避難させた――その判断は正しかったのか

【理事長の判断事例 CASE 02】

前回の臨時総会をめぐる混乱のあと、私たちは相手側が次にどのような行動を取るのか、注意して見るようになっていました。

それまでの私は、「いくら対立していても、そこまではしないだろう」という感覚をどこかに持っていたと思います。

しかし、臨時総会当日の出来事を境に、その考えは変わりました。

総会終了後、帰ろうとする役員の進路を妨げるなど、それまでの管理組合内の意見対立とは明らかに性質の違う行動が見られたからです。

このとき私は、「次に何が起きるかを、こちらの常識だけで考えてはいけない」と思うようになりました。

管理事務所には、管理組合の重要な情報が集まっている

そこで気になったのが、管理事務所でした。

管理事務所には、管理組合を運営していくために必要なさまざまな資料が保管されていました。

契約書、組合員名簿、総会や理事会の資料、建物管理に関する資料などです。

普段は、そこに置いてあること自体を特に意識することはありません。

しかし、もし管理事務所に入れなくなったらどうなるのか。

もし重要な資料を持ち出されたらどうなるのか。

そう考えると、単なる「書類の保管場所」の問題ではありませんでした。

契約関係を確認できない。

組合員への連絡ができない。

過去にどのような決議を行ったのか確認できない。

管理会社や各種業者との関係を確認することも難しくなる。

管理組合を正常に運営するための基礎資料そのものが、そこに集まっていたのです。

「まさか」と思いながら、すべての書類を移した

実際に何かが起きると確信していたわけではありません。

むしろ、「さすがにそこまではしないだろう」という気持ちがありました。

それでも、念のために管理事務所内の重要書類を別の場所へ移しておくことにしました。

契約書や組合員名簿を含め、管理組合の運営に必要となる資料を、管理事務所から避難させました。

結果的には、この判断が大きな意味を持つことになります。

2020年1月、再び臨時総会が開かれた

2020年1月、相手側によって再び臨時総会が開催されました。

当時、現役員側には、どの組合員にどのような議案書が配布されたのか、十分な情報がありませんでした。

総会の内容は、管理会社の変更を含むものだったようです。

そして総会終了後、事態は動きました。

管理事務所の鍵が変更され、警備システムも入れ替えられました。

さらに、管理事務所内に保管されていた資料を持ち出そうとする動きもありました。

しかし、重要書類はすでに別の場所へ移していました。

そのため、契約書や組合員名簿などの管理組合関係資料まで失う事態は避けることができました。

もし、書類をそのまま置いていたら

このとき、私は改めて考えました。

もし、「そこまではしないだろう」と考えて何もしなかったら、どうなっていたのか。

管理事務所に入れなくなっただけでなく、管理組合運営に必要な資料まで手元から失っていた可能性があります。

そうなれば、その後の対応はさらに難しくなっていたと思います。

紛争になると、どうしても、

「どちらが正しいのか」

「どの総会が有効なのか」

「誰が理事長なのか」

といった問題に意識が向きます。

しかし、管理組合運営では、それとは別に考えておかなければならないことがあります。

紛争が続いても、管理組合そのものは運営できる状態を残しておくことです。

管理組合の重要書類は、単なる紙ではない

契約書や組合員名簿、議事録などは、普段は単なる保存書類に見えるかもしれません。

しかし、問題が起きたときには意味が変わります。

それらは、

「誰とどのような契約をしているのか」

「誰が組合員なのか」

「これまで何を決めてきたのか」

を確認するための、管理組合の記録そのものです。

これらを確認できなければ、事実関係を整理することさえ難しくなります。

管理組合の紛争では、権限の問題だけでなく、

情報を誰が保有しているのか

という問題も非常に重要なのだと、このとき実感しました。

起きる確率ではなく、起きたときの損失を考える

管理事務所の鍵まで変更されると、私たちも事前に確信していたわけではありません。

予想が外れて、「結局、何も起きなかった」という可能性も十分にありました。

しかし、その場合でも、重要書類を別の安全な場所に保管しておいたことで、大きな不利益が生じるわけではありません。

一方で、予想が当たり、重要書類まで失ってしまえば、その後の管理組合運営には大きな支障が出ます。

つまり、このとき考えるべきだったのは、「本当にそんなことが起きるのか」だけではありませんでした。

もし起きたとき、何を失うのか。

そこまで考える必要がありました。

ケース①では、私たちは相手の請求が正しいかどうかを考えることに集中しすぎて、その次の行動を十分に予測できませんでした。

このときは逆に、

「次に何が起きるか」

を考え、先に備えることができました。

起きてから対応するのではなく、

起きたときに取り返しがつかないものだけは、先に守っておく。

管理組合のトラブルを経験して、私が学んだ判断の一つです。

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