自主管理マンションが部分外注するとき、本当に設計すべきこと
自主管理マンションから相談を受けるとき、
「会計だけお願いできますか」
「設備関係だけ見てもらえませんか」
「全部を管理会社へ任せるつもりはないのですが、一部だけ外へ出したい」という話があります。
これは珍しいことではありません。
特に小規模マンションでは、管理会社へすべてを委託すると、戸当たりの管理費負担が大きくなります。一方で、会計、設備、清掃、修繕などをすべて住民だけで続けるのも難しくなってきます。
そこで必要な部分だけ外部へ任せる。
部分外注は、十分合理的な選択です。
しかし、私たちが実際に自主管理マンションに関わってきた中で、注意した方がよいと感じている部分があります。
それは、
「何を外注するか」を決めただけでは、管理体制は完成しないということです。
実際には、外注した仕事そのものより、その仕事と管理組合との「つなぎ目」で問題が起きることがあります。
会計を外注したのに、滞納が増えたマンション
私たちが関わった20戸台の自主管理マンションでも、もともとは大きな問題なく運営されていました。
役員は輪番制で、多少の属人化はあったものの、それなりに管理組合は動いていました。
最初に負担が限界に達したのが会計担当者でした。
そこで会計だけを外部へ委託することになりました。
この判断自体には、特に不自然なところはありません。
会計を外へ出せば役員の負担は減る。
それ以外は従来通り輪番制で続ける。
受託した時点でも、管理組合内部に目立った問題はありませんでした。
ところが、その後、ある理事長の就任をきっかけに、外注先との情報共有がうまくいかなくなりました。
理事長自身も仕事などで忙しかったのだと思います。
やがて滞納者が増えていきました。
ここだけを見ると、
「理事長がきちんと対応しなかったからだ」と考えたくなります。
しかし、私たちはそうは考えません。
輪番制であれば、忙しい人が理事長になることは当然あり得ます。
マンション管理に詳しくない人が就任することもあります。
問題だったのは、
理事長一人が動かなければ、会計外注先から得られた情報が、その先へ進まない仕組みになっていたことです。
会計処理には問題がなくても、管理組合運営は止まる。
ここに部分外注の難しさがあります。
外注先の「業務範囲」と、管理組合の「運営」は別の問題
ここでは、契約上の問題と現場運営上の問題を分けて考える必要があります。
例えば会計業務を委託している場合、委託先は契約で定められた帳簿作成、入出金確認、決算資料作成などを行います。
契約に督促業務まで含まれていれば、その範囲までは対応するでしょう。
一方で、
「滞納が長期化したので、今後どの方針で対応するか」
「弁護士等への相談を行うか」
「管理組合としてどこまで費用をかけるか」
といった判断まで、会計外注先が勝手に決めることはできません。
これは会計業務受託会社が不親切だからではありません。
そもそも、契約上担当している仕事と、管理組合として判断すべきことが違うからです。
設備点検でも同じです。
点検会社が、「この設備に劣化があります」と報告する。
そこまでは点検業務です。
しかし、
すぐ修理するのか。
経過観察するのか。
複数社から見積りを取るのか。
長期修繕計画との関係をどうするのか。
これは別の判断です。
つまり、部分外注には必ず、外注先が行う仕事と、管理組合が判断する仕事との境界が生まれます。
ここを曖昧にしたまま、「専門業者へ頼んだから大丈夫」と考えてしまうことが、最も危険です。
私たちが見るのは、「誰に頼むか」より「どこで仕事が止まるか」
部分外注の相談を受けたとき、KTCでは単に、
「会計を外注しましょう」「設備会社を探しましょう」とは考えません。
まず確認したいのは、現在の管理がどのようにつながっているかです。
例えば会計なら、
入金を確認する。
滞納を発見する。
誰かへ報告する。
対応方法を判断する。
督促する。
結果を記録する。
という流れがあります。
ここで重要なのは、担当者名を並べることではありません。
私たちが見たいのは、
途中の誰か一人が動けなくなったとき、その仕事がどこで止まるかです。
例えば、
「滞納一覧は毎月理事長へ送る」だけなら、一見役割は決まっています。
では理事長が見なかったらどうなるのか。
副理事長へ共有されるのか。
次回理事会の議題に自動的に載るのか。
一定期間を超えれば外注先から再度連絡するのか。
何も決まっていなければ、そこが空白です。
私たちが考える管理体制設計とは、細かな規則を大量につくることではありません。
「ここが止まったら、次は誰が拾うのか」を決めることです。
この考え方は、会計だけでなく、設備、修繕、契約更新、保険、住民対応などにも共通します。
部分外注では「実行・報告・判断・対応・記録」を分けてみる
管理組合の業務を整理するときは、五つ程度に分けて考えると問題が見えやすくなります。
まず「実行」。
実際に作業する人です。
会計処理なら会計担当者、点検なら設備会社です。
次に「報告」。
作業結果や異常を誰に伝えるのか。
そして「判断」。
その報告を受けて、何をするか決める人です。
さらに「対応」。
決まったことを実際に実行する人。
最後が「記録」です。
何が起き、どう判断し、どう対応したのかを、次の役員でも確認できる状態にしておくことです。
重要なのは、この五つをすべて外注することではありません。
むしろ、
「ここは住民でできる」
「ここだけ外部へ任せたい」
と切り分ければよいのです。
例えば、
会計処理は外注。
毎月の報告は理事全員へメール。
滞納対応の判断は理事会。
督促文書の作成・発送は外注。
結果は一覧表へ記録。
という形でも構いません。
別のマンションなら、もっと簡単な形で十分かもしれません。
大事なのは、空白をつくらないことです。
全面委託の方がよいマンションも、会計だけで十分なマンションもある
ここまで読むと、
「そんなに考えるなら、最初から全部管理会社へ任せた方が簡単ではないか」という意見もあると思います。
その考え方にも合理性があります。
役員のなり手がほとんどいない。
会計だけでなく設備、契約、修繕など複数の業務が止まり始めている。
管理組合内で実務を担える人がいない。
こうしたマンションでは、広い範囲を管理会社へ委託した方が安定することがあります。
一方で、役員間の連携が良く、建物事情にも詳しい人がいて、意思決定が問題なくできている管理組合なら、会計だけを外注すれば十分という場合もあります。
さらに、自主管理を続けながら、会計と設備だけ外注するという方法もあります。
したがって、
自主管理か、全面委託かという二択にする必要はありません。
KTCが重要だと考えているのは、委託範囲の広さではなく、
管理組合に残した仕事を、本当に管理組合が継続して担えるのかという点です。
管理費を安くするために住民へ仕事を押し戻しても、その仕事を誰もできなければ意味がありません。
逆に、管理会社へ高い管理費を払っているからといって、管理組合自身が何も考えなくてよいわけでもありません。
どちらにも限界があります。
小規模マンションでは、仕組みを作り過ぎることも失敗になる
もう一つ注意したいことがあります。
管理体制を設計すると聞くと、細かなマニュアルや規則を大量につくることを想像されるかもしれません。
しかし、10戸、20戸程度のマンションに、大規模マンションと同じ管理方法を持ち込めば、かえって運営負担が増えます。
軽微なことまで毎回理事会を開く。
連絡書類を大量に作る。
何をするにも複数人の承認を必要とする。
それでは、自主管理の身軽さという利点が失われます。
仕組みが多ければよいというわけではありません。
最低限押さえたいのは、
滞納が発生した。
設備に大きな異常が出た。
予定外の大きな支出が必要になった。
契約更新の時期が来た。
役員が交代した。
こうした重要な場面で、
「誰も気づかなかった」「誰も判断しなかった」「次の人が何も知らなかった」という状態を避けることです。
小規模マンションでは、そこまで設計できていれば、あとはできるだけ簡単な方が運営しやすくなります。
見積りを取る前に、「誰も担当していない仕事」を探してみる
部分外注を検討している管理組合に、まず確認してほしいことがあります。
今の管理業務を一つ選んで、
「実行する人」
「報告を受ける人」
「判断する人」
「対応する人」
「記録する人」
を書き出してみてください。
そして、もう一つ質問します。
そのうち一人が来月から動けなくなった場合、誰が代わりに動けますか。
答えが決まっていれば、その部分は比較的安定しています。
「今の理事長なら分かっている」
「長年担当している人しか知らない」
「その時になったら考える」
という箇所があれば、そこが現在の管理体制の弱点です。
外注先を探すのは、その後でも遅くありません。
部分外注とは、単に仕事を外へ出すだけではありません。
外へ出した仕事と、管理組合に残した仕事を、もう一度つなぎ直すことです。
そして、その仕組みが特定の理事長や役員の能力や献身に依存せず、次の役員にも引き継がれる状態にする。
それができれば、部分外注は「全面委託までのつなぎ」ではなく、小規模マンションや自主管理マンションにとって、一つの完成した管理方法になります。
KTCでは、自主管理マンションや小規模マンションについて、単に会計や管理業務を受託するだけでなく、管理組合に何を残し、何を外部へ任せ、その間をどうつなぐかという管理体制の整理も行っています。
部分外注を検討されている場合は、まず見積金額を比較する前に、「今の管理で、誰も拾わない仕事がないか」を確認してみてください。
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