C01 怪しい臨時総会開催請求。理事長は無視すべきだったのか

【理事長の判断事例 CASE 01】

大規模修繕工事の施工会社を選定するため、候補各社にプレゼンテーションをしてもらう予定日の前夜、私の携帯電話が鳴りました。

理事会を傍聴していた一人の組合員からでした。

「管理規約の組合員による総会招集請求の規定に基づき、組合員総数の5分の1以上の同意を得たので、現役員解任を目的とした臨時総会の開催を請求する」

という内容でした。

突然の請求でした。

理事長は、まず本当に必要な人数の同意があるのか確認する必要があると考えました。

そこで、同意者を確認できる資料の提出を求めようと、連絡してきた組合員に何度か連絡を入れました。

ところが、プレゼンテーション前夜の電話以降、なぜか連絡がつかなくなりました。

そのため理事長は、同意者を確認できる資料を提示してほしい旨を、内容証明郵便でも通知しました。

「本当に5分の1あるのか」

当時のこのマンションの管理規約では、一定数以上の組合員の同意を得て総会開催を請求した場合、理事長が一定期間内に臨時総会を招集するという規定になっていました。

理事会が問題にしたのは、

本当にその要件を満たした請求なのか

という点でした。

請求した組合員からは、「必要な人数の同意を得ている」との説明はありました。

しかし、同意者を確認できる資料は提示されません。

理事会からすると、当然疑問が生じます。

正式な総会開催請求なのであれば、後になって「人数が足りなかった」「本人は同意していなかった」という問題が起きないよう、同意の事実を確認できるようにしておくのが通常ではないか。

ところが、その確認ができない。

理事会は、

「必要な同意が確認できない以上、このまま臨時総会を招集することはできない」

と判断しました。

当時の心情としては、非常に理解できる判断だったと思います。

私自身も、そのときはそう考えていました。

しかし今振り返ると、ここに一つの大きな判断の分岐点がありました。

同意者を確認すると、おかしな点が出てきた

その後も理事会は、請求を行った組合員に何度も連絡しました。

すると最終的に、同意者の氏名だけは確認できることになりました。

コピーは認められなかったため、理事会側で一名ずつ氏名を書き写しました。

そして確認してみると、同意者の中には、すでにマンションを売却して組合員ではなくなっていた人や、亡くなっていた人の氏名まで含まれていました。

それらを除くと、必要とされる5分の1の人数にも達していませんでした。

さらに、同意者として名前の挙がっていた組合員に理事長が確認したところ、

「そのような同意をした事実はない」

という回答までありました。

こうなると理事会の考えは、さらに固くなります。

「そもそも要件を満たしていないのだから、臨時総会を招集する必要はない」

という判断です。

これも、その時点だけを見れば不自然な判断ではありません。

むしろ、

「このような請求を認めてしまえば、確認できない口頭の申出だけで誰でも総会を要求できることになってしまう」

という危機感もありました。

私たちが見ていたのは「請求が正しいか」だけだった

しかし、今から考えると、理事会は一つのことに意識を集中しすぎていました。

この請求が有効なのか。

そこばかりを見ていたのです。

もちろん、その確認は必要です。

しかし、理事長として考えるべきことは、それだけではありませんでした。

もう一つ考える必要がありました。

「このまま理事長が総会を招集しなければ、相手は次に何をするのか」

ということです。

私たちは、

「請求の要件を満たしていないのだから、相手はこれ以上進められないだろう」

と考えていました。

ところが、相手は違いました。

2019年10月、請求を行った側は、

「必要な同意を得て臨時総会の開催を請求したにもかかわらず、理事長が期限内に招集しなかった」

という立場から、自ら役員解任を目的とした臨時総会を招集しました。

その前には、代理人を名乗る弁護士から理事長宛てに通知書も届きました。

通知書には、

「必要な同意を得て請求したが、理事長が対応しなかったため、自ら総会を招集する」

という趣旨が書かれていました。

理事会側の認識とは、まったく異なる内容でした。

しかし、ここで問題になったのは、

どちらの説明が正しいかだけではありませんでした。

「理事長が総会を招集しなかった」という事実が、相手側の次の行動の根拠として使われてしまったのです。

今なら、どう判断するか

私は今でも、当時の理事会の判断がすべて間違っていたとは思っていません。

同意者を確認できない。

確認してみれば、すでに組合員ではない人の氏名が含まれている。

本人が同意を否定するケースまである。

そのような状態で、

「正式な総会開催請求として扱ってよいのか」

と疑問を持つのは当然です。

ただし、今なら別のことも考えます。

請求の有効性を争うことと、理事長として総会招集の主導権を持ち続けることは、別の問題ではないか。

ということです。

仮に相手の請求に疑問があったとしても、理事長自身が正規の手続きによって臨時総会を招集し、

「役員を解任するのか、しないのか」

を組合員に正式に判断してもらう。

そういう選択肢もありました。

そうしていれば、少なくとも、

「理事長が総会を開かなかったから、自分たちで開催する」

という形で総会招集の主導権を相手側に渡すことは避けられたかもしれません。

「相手が間違っている」と「自分がどう動くか」は別の問題

管理組合のトラブルでは、

「こちらが正しい」
「相手が規約を守っていない」

ということに意識が向きがちです。

しかし、実際の組合運営では、それだけでは十分ではありません。

相手の主張がおかしいとしても、

では、理事長として次に何をするのか。

そこまで考えなければなりません。

相手が正しいか、間違っているか。

その確認に時間を使うことが必要な場合もあります。

一方で、その間に相手が次の行動へ進むこともあります。

この経験から、私は一つのことを強く感じました。

あのとき私たちは、

「相手の請求が正しいのか」を考え続けていました。

しかし、理事長として本当に考えるべきだったのは、

「この次に何が起きるのか」だったのだと思います。

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