C03 『理事長が二人』になった結果、管理組合の銀行口座が止まった

【理事長の判断事例 CASE 03】

〇〇氏が新しい理事長を名乗るようになったことで、管理組合では、それまで想像していなかった事態が起こりました。

〇〇氏は、自らが招集した臨時総会が成立したとして議事録を作成し、金融機関に対して管理組合の代表者変更手続きを行ったのです。

通常、管理組合の代表者を変更する場合には、代表者変更を確認できる議事録などの書類に加え、届出印などの手続きが必要になります。

しかし今回は、従来の銀行印を引き継ぐのではなく、改印手続きも同時に行われました。

当時の私たちは、「そこまでできるのか」ということに非常に驚きました。

金融機関によって対応が分かれた

実際の対応は、金融機関によって異なりました。

信用組合の口座については、前任者から銀行印を引き継げないという事情などをもとに、代表者変更と改印の手続きが進められました。

一方、都市銀行では対応が異なりました。

提出された議事録と過去の議事録の形式が異なるなど、不透明な点があるとして、その場で口座が凍結されました。

当時、この都市銀行の口座には、管理組合の積立金を含む比較的大きな資金が保管されていました。

一方、信用組合の口座には、それほど大きな金額はありませんでした。

結果だけを見れば、多額の資金が入った口座について銀行側が慎重な対応を取ったことが、管理組合にとって大きな意味を持ちました。

金融機関ごとの確認方法や対応の違いも、管理組合の資金管理を考えるうえでは一つのリスクになるのだと、このとき初めて実感しました。

「誰が理事長なのか」が分からなくなると、お金が動かなくなる

凍結された都市銀行口座は、単なる積立金の保管口座ではありませんでした。

管理費や修繕積立金が入り、そこから管理会社や各種保守業者への支払いを行う、管理組合の主要な口座でした。

その口座が凍結されたことで、管理組合は、その日から通常どおりの支払いができなくなりました。

ここで初めて、

「理事長が二人いる」という内部の問題が、管理組合の実務そのものを止める問題に変わったのです。

管理会社への支払い。

設備保守会社への支払い。

建物を維持するために必要な、さまざまな支払い。

管理組合が誰を正式な代表者としているのか分からない状態では、銀行側も一方の指示だけに従うことができません。

内部では、

「こちらが正しい理事長だ」

「相手の総会は無効だ」

と主張することができます。

しかし、第三者である銀行から見れば事情は異なります。

どちらが本当に管理組合を代表しているのか判断できないのであれば、資金を動かさないという対応になります。

銀行からすれば、むしろ自然な判断です。

支払いが止まると、保守業者も動けなくなる

管理組合からの支払いができない状態が続けば、当然、その影響は取引先にも及びます。

翌月以降、保守業者の中には契約関係を継続できなくなるところも出てきました。

営利企業である以上、いつ支払われるのか分からない状態で、無期限に業務を続けることはできません。

その結果、

理事長をめぐる争い
から始まった問題が、

銀行口座の凍結
へ進み、

さらに、

業者への支払い停止
から、

マンションの日常管理への影響

へと連鎖していきました。

管理組合内部の権限争いが、建物管理の問題に変わった瞬間でした。

保険契約にも影響が及びかけた

〇〇氏は、管理組合が加入している火災保険についても、契約上の代表者変更手続きを行おうとしました。

このときは、保険代理店側が事情を把握していたことから、すぐに代表者変更が行われることはありませんでした。

ここでも感じたのは、同じ管理組合の問題であっても、

銀行、
保険会社、
管理会社、
保守業者、

それぞれが、管理組合内部の事情をすべて理解しているわけではないということです。

外部の会社から見れば、

「誰の指示に従えばよいのか」

が分からなくなった時点で、通常の取引を続けること自体がリスクになります。

管理組合の口座は、単なる「お金の保管場所」ではなかった

それまで私は、管理組合の銀行口座を主に資金管理の問題として捉えていました。

管理費を集める。

修繕積立金を貯める。

必要な支払いをする。

もちろん、それ自体は間違っていません。

しかし、この紛争を経験して認識が変わりました。

管理組合の銀行口座は、

マンション管理を継続するための実務上の基盤でもあります。

口座が止まれば、支払いが止まる。

支払いが止まれば、業者との契約維持が難しくなる。

業者が動けなくなれば、最後には建物管理そのものに影響する。

つまり、

「誰が理事長なのか」

という一見すると組合内部だけの問題が、

マンションを維持する仕組み全体にまで波及することがあるのです。

正しい決議だけを守ればよいわけではない

当時の私たちは、

「どちらが正しい理事長なのか」

「どちらの総会が有効なのか」

という問題に強く意識を向けていました。

もちろん、それは重要です。

しかし、実際の管理組合運営では、それだけでは足りませんでした。

仮に最終的にこちらの主張が正しいと認められたとしても、その間に銀行口座が止まり、業者への支払いができなくなり、建物管理に支障が出てしまえば、管理組合が受ける損失はなくなりません。

この経験から私は、

管理組合では「正しい意思決定」だけでなく、その意思を継続して執行できる状態を守ることも重要なのだ

と考えるようになりました。

誰が管理組合を代表するのか。

誰が銀行に指示できるのか。

誰が管理会社や保守業者に依頼できるのか。

誰が必要な支払いを行えるのか。

こうした権限と実務が途切れない状態を保つことも、マンションを守るための大切な管理組合運営の一部です。

「理事長が二人いる」

最初は、組合内部の特殊な争いのように見えていました。

しかし実際には、その混乱は銀行口座を止め、取引先への支払いを止め、最後にはマンションの日常管理にまで影響しました。

管理組合内部の問題は、内部だけでは終わらない。

この経験で、強く実感したことの一つです。

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