マンションの理事長になってしまったら――最初に知っておきたい役割と「判断」の話

輪番制で順番が回ってきた。
他にやる人がおらず、推薦されてしまった。

マンションの理事長は、なりたくてなる人ばかりではありません。

「できれば一年間、何事もなく終わってほしい」

そう思うのは、決して不自然なことではないでしょう。

ところが実際に理事長になると、

「理事長、どうしますか」
「この見積りで進めてよいですか」
「次の理事会で決めてもらえますか」

と、急に判断を求められる場面が増えてきます。

そこで管理会社の説明どおりに進めれば、理事会は比較的スムーズに終わります。

管理会社には過去の経緯や実務上の知識がありますから、その提案には、通常合理性があります。

一方、真面目な理事長ほど、

「本当にこれでよいのか」と考え始めます。

過去の議事録を調べ、契約書を確認し、修繕履歴を探し、インターネットでも調べる。

そして自分なりの考えを持つようになります。

ところが今度は、他の理事との温度差が出てきます。

「そこまで調べなくてもいいのでは」
「管理会社に任せればいい」
「理事会なんて早く終わってほしい」

そう考える理事もいます。

すると、熱心な理事長ほど、

「どうしてみんな真剣に考えてくれないのか」と、もどかしくなります。

しかし、ここで一度考えてほしいことがあります。

理事長の仕事は、他の理事を自分と同じくらい熱心にすることでしょうか。

私たちは、そうではないと考えています。

理事長は「マンションで一番詳しい人」ではない

マンション管理には、建築、設備、会計、保険、法律、契約、滞納、住民間の問題など、多くの分野が関係しています。

これらを任期一年、二年の理事長がすべて理解することは現実的ではありません。

にもかかわらず、

「理事長なのだから、自分が理解しなければならない」
「自分が正しい答えを出さなければならない」

と考え始めると、理事長の負担は際限なく大きくなります。

しかも、この方法には別の問題があります。

非常に熱心で能力の高い理事長が、何年もかけて建物のことを覚え、会計を理解し、業者との関係をつくった。

その人がいる間は、とてもよく管理されている。

しかし、その人が辞めた途端に、

「誰も分からない」となってしまう。

私たちは、この状態を必ずしも「管理がうまくいっている」とは考えません。

一人の能力で成立していることと、管理組合として管理できていることは別だからです。

理事長が交代しても続けられる。

その状態をつくることの方が、長い目で見れば重要です。

理事長には権限がある。しかし「一人で決める権限」ではない

では、理事長と他の理事は何が違うのでしょうか。

一つは、手続上の役割です。

国土交通省の令和7年改正マンション標準管理規約では、理事会は原則として理事長が招集し、理事長が議長を務めます。また、臨時総会についても、理事会の決議を経て理事長が招集する仕組みになっています。

つまり理事長は、管理組合の意思決定を前に進めるうえで、非常に重要な位置にいます。

ただし、

「理事長に権限がある」ことと、「理事長が一人で何でも決められる」こととは全く違います。

理事会そのものが業務執行について決定する機関であり、標準管理規約では、理事会の議事は原則として出席理事の過半数で決します。

総会についても、決議事項によって要件が異なります。2026年4月1日には改正区分所有法が施行され、標準管理規約もこれに対応して改正されていますので、「何でも過半数」と覚えるのではなく、それぞれのマンションの管理規約と決議事項を確認する必要があります。

さらに、一定の条件を満たした理事や組合員が招集を求め、それでも理事長が必要な手続きを取らない場合には、別の者が招集できる仕組みもあります。

したがって、理事長に絶対的な拒否権があるわけではありません。

私たちが理事長に知っておいてほしいのは、

「自分が一番偉い」という意味での権限ではなく、

「管理組合が意思決定するための手続の中心に自分がいる」という意味での権限です。

「調べる」「提案する」「決める」「実行する」を分けて考える

実際の管理組合を見ていると、理事長が苦しくなる理由の一つは、いろいろな仕事が一つに混ざっていることです。

例えば、給水設備を更新する問題が出てきたとします。

理事長が、

設備の状態を調べ、
工事方法を勉強し、
業者を探し、
見積りを比較し、
資金計画を考え、
理事に説明し、
総会資料まで作る。

ここまで一人で行えば、大変なのは当然です。

しかし本来は、分けられます。

設備の状態を調査するのは、専門業者でもよい。

見積りを集めるのは、管理会社でもよい。

技術的な比較は、専門家に聞いてもよい。

資料作成も、管理会社に頼めます。

他の理事から意見を出してもらうこともできます。

それらを踏まえて理事会として検討し、必要な決議を行う。

理事長が全部を担当する必要はありません。

このとき、理事長に求められる判断は、

「自分で答えを出すこと」ではありません。

誰に調べてもらうか。
どこまで情報を集めるか。
いつ理事会で議論するか。
いつ議論を終えて採決するか。
総会に諮る必要があるのか。

こうした「決め方についての判断」が、理事長の重要な仕事です。

私たちは、マンション管理では、この部分が意外に軽視されていると感じています。

真面目な理事長ほど「もっと調べれば正解が出る」と考えてしまう

もう一つ、現場でよく起きる問題があります。

真面目な理事長ほど、

「まだ判断材料が足りないのではないか」と考え続けることです。

もちろん、重要な問題を十分調べずに決めるべきではありません。

しかしマンション管理には、調べれば正解が見つかる問題ばかりではありません。

例えば、

修繕を今年するか、もう一年待つか。

管理費を値上げするか、委託業務を減らすか。

現在の管理会社と交渉するか、他社から見積りを取るか。

専門家に費用を払って依頼するか、理事会で対応するか。

どちらにもメリットとデメリットがあります。

こうした問題では、情報を100%そろえることはできません。

70%、80%程度の材料がそろった段階で、

「そろそろ決めるべきではないか」と判断する必要が出てきます。

決めないことにも、結果があるからです。

修繕を先送りすれば劣化は進みます。

管理費の赤字を放置すれば資金は減ります。

役員問題を先送りすれば、次年度も同じ問題が起こります。

したがって、理事長に必要なのは、慎重さだけではありません。

どこまで検討したら、決議に移るのかを判断することです。

規約どおりに動けば、それだけで十分なのか

私たちは、実際の管理組合の紛争に関わる中で、この点について強く考えさせられたことがあります。

ある事例では、役員側は自分たちなりに管理規約に沿って対応しているつもりでした。

しかし、

「相手が次にどのような手続きを取る可能性があるのか」というところまで想定できていませんでした。

結果として、相手側に先に手続きを進められ、管理組合運営の主導権を失ってしまいました。

【規約どおり対応していたつもりで、相手の次の動きを読まずに主導権を失った事例はこちら】

ここから私たちが学んだのは、

規約を守ることと、管理組合を運営できることは同じではないということでした。

規約や法律に従うことは大前提です。

これが「制度」です。

しかし現実の管理組合には、

誰が何を考えているのか。
次に誰が動く可能性があるのか。
いつ説明するのか。
いつ理事会を開くのか。
どこで採決するのか。

という「運営」があります。

さらに、組合員の不信感や人間関係という別の問題もあります。

制度、運営、感情を一緒にしてしまうと、問題が見えにくくなります。

ここは別に考えることが重要です。

管理会社に任せる理事長が悪いわけでもない

ここまで読むと、

「管理会社の言うことを鵜呑みにしてはいけない」という記事に見えるかもしれません。

しかし、それは私たちの考えとは少し違います。

管理会社には、任せた方がよい仕事がたくさんあります。

毎年同じように行う点検や契約更新。

資料作成。

業者への問い合わせ。

見積り取得。

過去資料の整理。

こうした実務まで理事長が抱える必要はありません。

管理会社が十分信頼でき、提案内容には合理性があり、理事会がその理由を理解できているのであれば、管理会社の提案を採用することに何の問題もありません。

むしろ、何でも疑い、理事長が一から調べ直す運営は、非常に非効率です。

問題は、

「任せている」のか、「分からないから従っている」のかという違いです。

例えば、

「三社から見積りを取ってください」

と管理会社に頼み、比較結果を確認して決めるのであれば、それは業務を任せています。

一方、

「管理会社がこの会社がいいと言っているから、それで」

だけで終われば、判断そのものまで外部に移っている可能性があります。

どちらが正しいという単純な話ではありません。

管理会社にどこまで任せ、どこを管理組合自身が判断するのか。

それを明確にしておくことが大切です。

理事長になったら、最初に五つだけ確認してみる

理事長になったからといって、いきなりマンション管理の勉強を始める必要はないと思います。

まず、次の五つを確認してみてください。

  1. 管理規約では、理事長・理事会・総会にどのような役割が与えられているか
  2. 現在、理事会で止まっている問題は何か
  3. 今年中に必ず決めなければならないことは何か
  4. 管理会社に何を委託しており、管理組合側に何が残っているか
  5. 重要な過去の判断が、議事録や資料から追える状態になっているか

これだけでも、理事長として見るべき景色はかなり変わると思います。

そして、分からないことが出てきたら、全部自分で調べる必要はありません。

管理会社に聞く。

他の理事に調べてもらう。

専門家に相談する。

必要なら複数の意見を聞く。

そのうえで理事会として議論し、決議する。

理事長の仕事は、

全部を知ることでも、全部を決めることでも、理事会全員をまとめ上げることでもありません。

管理組合が必要な情報を得て、必要なときに議論し、必要なときに決められる。

その状態をつくることです。

理事長個人の能力や献身に依存するマンションでは、理事長が代わるたびに管理の質も変わります。

私たちが目指したいのは、その逆です。

理事長が代わっても、必要な情報が残っている。

専門的なことは専門家に聞ける。

実務は外部に任せられる。

そして最後は、管理組合自身が決められる。

良い理事長を探し続けるのではなく、誰が理事長になっても運営できる仕組みをつくる。

マンション管理を長く続けていくためには、その方が現実的ではないでしょうか。

株式会社関西建物センターでは、管理会社への全面委託だけでなく、管理組合にどの機能を残し、どの業務を外部化するかという「管理体制そのもの」の整理についてもご相談をお受けしています。

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