小規模マンションは民主主義だけでは運営できない

「きちんと説明し、多数決で決めたのだから、従ってもらうしかない」

管理組合の運営では、もっともな考え方です。

修繕工事、管理費の値上げ、管理会社の変更など、全員の意見が一致するとは限りません。最終的には、法令や管理規約に定められた手続きによって結論を出さなければ、建物を維持できなくなります。

しかし、小規模マンションの現場では、正しい手続きを踏んで議案を可決したにもかかわらず、その後の運営が難しくなることがあります。

決議に反対した人が役員を引き受けなくなった。理事会への協力を拒むようになった。管理会社への苦情が増えた。過去の対立が別の議案にまで持ち越された。

決議は成立しているのに、管理組合としては前に進めなくなります。

ここでいう「民主主義だけでは運営できない」とは、多数決を否定する意味ではありません。

小規模マンションでは、正式な意思決定に加えて、人間関係、過去の経緯、役割分担、決議後の協力関係まで考えなければ、継続的な運営ができないという意味です。

大規模マンションでは、標準化と多数決が必要になる

戸数の多いマンションでは、すべての区分所有者の事情や感情を個別に確認しながら物事を決めることは困難です。

総会や理事会の時間には限りがあります。議案と直接関係のない意見や、個別の事情をすべて取り上げていれば、結論にたどり着けません。

そのため、議案の範囲を明確にし、資料を配布し、一定の説明を行ったうえで、多数決によって決定することになります。

管理会社の業務も、標準的な契約、帳票、対応手順に沿って進める方が効率的です。担当者個人の判断に左右されにくく、一定の品質を保ちやすいという利点もあります。

住民側も、一人の意見が全体を大きく左右するわけではないため、管理組合運営との距離が遠くなりやすくなります。

「詳しいことは役員や管理会社に任せる」

「大手管理会社であれば、致命的な問題は起きにくいだろう」

このような判断も、大規模な組織を動かすうえでは、ある程度合理的です。

大手管理会社の標準化された運営が悪いのではありません。多数の物件と多数の居住者を扱う以上、個別事情への対応よりも、全体を一定の基準で運営することが重視される構造になっているだけです。

小規模マンションでは、一人の不参加が運営を止める

ところが、小規模マンションは、大規模マンションを単純に縮小したものとはなりません。

戸数が少ないため、一票の比重が大きいだけでなく、一人が運営に参加しないことの影響も大きくなります。

例えば、12戸のマンションで一人が役員への就任を拒み続ければ、役員の輪番が大きく崩れます。一人が資料提出や室内立入りに協力しなければ、修繕や点検が予定どおり進まないこともあります。

管理費の滞納、工事への反対、駐車場や専用使用部分をめぐる争いなどについても、当事者同士が日常的に顔を合わせます。

決議に敗れた人が、数百人の中の一人として埋もれることはなく、決議後も同じ建物に住み、将来は役員を務め、別の案件では協力を求める相手となります。

このため、小規模マンションでは、「正しく決めたか」だけでなく、「決めた後も運営に参加してもらえるか」が重要となります。

これは、反対者に拒否権を与えるという意味ではありません。

反対意見をすべて受け入れていては、必要な工事も管理費の見直しもできません。しかし、反対した人を単に少数派として切り捨てると、問題が別の形で残る可能性があるということです。

正論で決めた後に、別の問題が起こる

KTCが小規模マンションの相談で繰り返し目にするのは、制度上の問題よりも、決め方や説明の順序によって対立が深くなるケースです。

次の事例は、複数の相談内容をもとに匿名化し、再構成したものです。

ある小規模マンションでは、設備の更新工事が必要となり、理事会は複数社から見積もりを取得しました。金額と工事内容を比較し、理事会としては一社に絞って総会へ上程しました。

手続きだけを見れば、特に不自然なところはありません。

ところが、ある区分所有者は、工事の必要性そのものではなく、「なぜ修理ではなく更新なのか」「なぜ今なのか」という点に疑問を持っていました。

総会では、理事長から工事の必要性が説明されましたが、議論が長引いたため、「専門業者も必要と言っている」「多数決で決めるしかない」と採決に進みました。

議案は可決されました。

しかし、その区分所有者には、「質問に答えずに押し切られた」という感情が残りました。そしてその後は、別の修繕案件でも理事会の提案に反対するようになり、問題は設備工事の内容から、理事会への不信へと変わりました。

このケースで不足していたのは、総会の手続きではありません。

工事の緊急性、修理と更新の違い、今回決める範囲、将来に先送りできる範囲が整理されていなかったことです。

制度上は一つの議案でも、現場では複数の疑問や感情が混在しています。これを分けずに採決すると、工事は決まっても、不信感が残ります。

KTCが最初に見るのは、賛成と反対ではない

KTCが小規模マンションの問題を整理するとき、最初から「誰が正しいか」「賛成が何人いるか」を確認するわけではありません。

まず、問題を四つに分けます。

一つ目は、制度上の問題です。

法令、管理規約、総会決議など、正式な手続きが必要な事項なのかを確認します。ここは、多数決や必要な決議要件を無視できません。

二つ目は、契約上の問題です。

管理会社、工事会社、点検会社などの契約範囲を確認します。管理会社に依頼すれば対応してもらえると思っていても、実際には契約に含まれていない場合があります。

三つ目は、運営上の問題です。

誰が資料を集め、誰が説明し、誰が決定後の対応を担うのかを確認します。制度上は決議できても、実行する人がいなければ運営が止まるからです。

四つ目は、感情や人間関係の問題です。

過去の説明不足、役員への不信、特定の住民同士の対立、長年の貢献を否定されたという感覚などです。

感情は総会決議では解決できません。しかし、感情の問題をすべて個人的な好き嫌いとして切り捨てると、制度や運営にまで影響が広がります。

この四つを分けたうえで、何を正式に決め、何を決議前に説明し、何を管理会社が整理し、何を管理組合自身が引き受けるのかを決めます。

KTCが考える管理体制の設計とは、管理会社が代わりに結論を出すことではありません。

管理組合が判断できるように、論点、選択肢、責任範囲、決定後の作業を見える形にすることです。

重鎮や管理会社は、結論を決める人ではない

小規模マンションでは、住民から信頼されている経験者、いわゆる重鎮が重要な役割を果たすことがあります。

その人が説明すると納得する。その人が間に入ると、対立していた住民が話を聞く。その人の一言によって、感情的な議論が現実的な方向へ戻る。

このような影響力は、役職や規約だけでは生まれません。長年の貢献や人間関係によって形成されています。

したがって、「理屈ではない影響力がある」という現実を無視すべきではありません。

一方で、重鎮に判断を委ねる運営には危険もあります。

反対意見が言えなくなる。過去の慣行が固定化される。重鎮が退去したり、健康上の理由で関与できなくなったりすると、運営が急に立ち行かなくなる。

必要なのは、重鎮に支配してもらうことではなく、その人が果たしている調整機能を把握することです。

管理会社についても同じです。

小規模マンションでは、標準的な回答を繰り返すだけでは、問題を整理できないことがあります。担当者が管理組合の経緯や人間関係を理解し、議案を出す前に論点を整理することが重要です。

ただし、「柔軟な担当者がいるから安心」というだけでは不十分です。

担当者の経験や記憶だけに依存すれば、異動や退職によって管理の質が変わります。個別対応の理由が記録されていなければ、後任者には単なる特例に見えてしまいます。

KTCが重視するのは、担当者が柔軟であることに加え、判断の経緯を記録し、社内で共有し、担当者が変わっても継続できるように整理しておくことです。

全員の納得を目指すことが正しいとも限らない

小規模マンションでは人間関係への配慮が必要ですが、何でも話し合い続ければよいわけではありません。

安全性に関わる工事、法定点検、漏水や設備故障など、対応を急がなければ損害が広がる案件もあります。

同じ質問が繰り返され、十分な資料を示しても議論が前に進まない場合には、一定の時点で採決する必要があります。

また、住民同士の調整が難しい場合には、次のような方法も考えられます。

  • 管理会社が論点整理だけを担当し、判断は管理組合が行う方法。
  • マンション管理士や建築士などの第三者に、特定の案件だけ意見を求める方法。
  • 少人数の検討会を設け、複数案を比較してから理事会や総会に上げる方法。
  • 事前質問を書面で受け付け、回答を全戸に共有する方法。

マンションの状態によっては、標準化された運営を徹底し、個別事情をあまり考慮しない方が安定する場合もあります。

反対に、戸数が少なく、長年の経緯が複雑なマンションでは、決議前の調整に時間をかけた方が、結果として意思決定コストが下がることもあります。

重要なのは、案件の緊急性、金額、影響を受ける住民、将来の協力関係を見ながら、手続きと調整の比重を変えることです。

管理組合が次に確認すべきこと

まず、過去に正式な決議をしたにもかかわらず、その後も不満や対立が残っている案件がないかを確認してください。

問題が残っている場合は、決議内容そのものではなく、次の点を振り返る必要があります。

  • 質問に対する回答が、採決前に示されていたか
  • 複数の選択肢と、採用しなかった理由が説明されていたか
  • 制度上必要な決定と、住民感情への配慮を混同していなかったか
  • 決議後に誰が何を実行するのか決まっていたか
  • 理事長、重鎮、担当者など、特定の一人に負担が集中していないか
  • 担当者が交代しても、判断の経緯を引き継げるか

小規模マンションでは、全員が納得する結論をつくることは難しいものです。

しかし、全員を納得させることと、反対者を無視することの間には、多くの選択肢があります。

必要なのは、正しい手続きで決めることだけではありません。

決めた後も、同じ住民で管理組合を運営できる状態を残すことです。

KTCでは、小規模マンションや自主管理マンションについて、議案の作成や会議運営だけでなく、誰か一人の献身に依存しない管理体制づくりを支援しています。管理会社の変更を検討する前に、現在の意思決定の流れを整理することも、改善の第一歩になります。