理事会が機能しないマンションの特徴
長期理事長を交代させるだけでは、問題は解決しない
理事会は定期的に開催されている。役員も出席している。管理会社の担当者も同席し、議案について説明した後、最後には一応の結論も出ている。
形式だけを見れば、問題なく運営されている理事会です。
ところが、実際に会議へ参加してみると、新任役員はほとんど発言せず、長年務めている理事長の意向を確認してから賛成している。管理会社の担当者も、理事長から指示されたことには対応するものの、役員間の議論には関わろうとしない。
この状態を、理事会が機能しているといえるのでしょうか。
実際に理事会が機能しているかどうかは、会議の開催回数や議案の処理件数だけでは判断できません。
誰が情報を持っているのか。
誰が判断しているのか。
誰が実行しているのか。
その判断理由を、誰が区分所有者に説明できるのか。
この四つが理事長一人に集中しているなら、決議が成立していても、継続できる管理体制とはいえません。
1.問題は「長く務める理事長がいること」ではない
長年理事長を務めていること自体は、問題ではありません。
建物や設備の履歴、過去のトラブル、区分所有者間の事情、工事会社との交渉経緯などを理解している理事長は、管理組合にとって貴重な存在です。
特に小規模マンションでは、毎年役員が入れ替わり、誰も過去を把握していない状態になるより、経験者が継続して関わる方が運営は安定します。
一方で、長期理事長が生まれる背景には、他の組合員が役員を引き受けない、引継資料がない、管理会社が判断材料を十分に準備しない、といった事情もあります。
その状態で理事長だけを「独断的だ」と批判するのは公平ではありません。
誰も引き受けない仕事を長年担い、問い合わせや苦情を受け、工事会社や管理会社との交渉も行ってきた。その結果として、「結局、自分が判断するしかない」という考え方になってきたこともあります。
問題は、理事長の経験値ではありません。
理事長の経験が管理組合の記録にならず、理事長の頭の中にしか残っていないことです。
2.新任役員の発言は、どのように消えていくのか
ある理事会では、今期から就任した役員が、議案について質問や意見を出していました。
「別の方法は検討したのでしょうか」
「この見積金額は妥当なのでしょうか」
「過去に同じような問題はありませんでしたか」
新任役員としては、役割を果たそうとして発言しています。
しかし、長年務める理事長からは、次のような回答が返ってきます。
「それは前にも検討しています」
「その方法ではうまくいきません」
「事情を知らないから、そう思うのです」
理事長の回答が間違っているとは限りません。実際に、過去に検討した結果、採用できなかった方法の場合もあるでしょう。
ただし、いつ、誰が、どのような選択肢を比較し、なぜ採用しなかったのかを示す資料がなければ、新任役員は確認できません。
質問を続ければ、理事長の経験や長年の努力を否定しているように受け取られる。会議も長くなる。それなら黙っていた方がよい。
役員は、こうして発言しなくなります。
これは、役員に意欲がないからではありません。その理事会では、発言しない方が人間関係を壊さずに済むということを学習した結果です。
理事会が機能しなくなるとき、最初から誰も発言しなかったわけではありません。
当初は積極的だった人が、何度か一蹴されるうちに発言をやめる。この過程を見落とすと問題を見誤ります。
3.制度上の理事会と、現場で動いている理事会は違う
制度上、理事会は理事長の相談相手を集める場ではありません。
国土交通省のマンション標準管理規約では、理事会は、管理組合の業務執行を決定し、理事の職務執行を監督する機関として整理されています。標準管理規約は各マンションの規約作成・改正の参考となるひな形であり、令和7年にもマンション関係法改正に合わせた見直しが行われています。
ただし、規約にそう書いてあるからといって、当然実際の理事会がそのとおりに動くわけではありません。
現場では、次のような状態が起こります。
理事長だけが過去の経緯を知っている。
議案書には結論しか書かれていない。
役員は、その場で初めて資料を見る。
管理会社の担当者は、理事長だけに説明している。
決議後の業者対応や住民説明も、理事長が行う。
これでは、理事会で決めているように見えても、実質的には理事長個人が判断し、他の役員が追認しているだけです。
ここで重要なのは、制度上の権限と、現場で情報を握っている人を分けて考えることです。
理事会に決定権があることと、理事会が判断できる状態にあることは同じではありません。
必要な情報が理事長一人に集中していれば、規約上は理事会決議であっても、現実には理事長に依存した意思決定になります。
4.管理会社の「関与しない姿勢」は、本当に中立なのか
このような理事会で、管理会社の担当者が果たす役割は小さくありません。
もっとも、管理会社が理事会に代わって結論を決めるべきではありません。管理会社は、管理組合から委託された業務を行う立場であり、管理組合の意思決定主体ではないからです。
また、すべての管理委託契約に、詳細な議案作成や会議進行、役員間の調整まで含まれているわけではありません。
国土交通省のマンション標準管理委託契約書でも、「理事長・理事会支援業務」を受託するかどうかを契約上区分し、管理組合が協力を必要とする場合の議事に関する助言、資料作成、議事録案の作成などを例示しています。実際の支援範囲は、それぞれの管理委託契約書と業務仕様書で確認する必要があります。
したがって、「管理会社なのだから、理事会運営のすべてを支援して当然」と考えるのも適切ではありません。
しかし、契約範囲が限られているからといって、機能不全を見ながら何も対処しないことは、姿勢の問題です。
新任役員が質問しているのに、担当者が理事長の顔だけを見る。過去の資料を持っているのに提示しない。議案書には管理会社が推奨する結論だけを記載し、他の選択肢や不利益を書かない。
その状態で「決めるのは理事会です」と距離を置くなら、それは中立というより、責任の所在を曖昧にしている可能性があります。
管理会社が行うべきなのは、理事長の意見に反対することでも、新任役員の味方になることでもありません。
過去に何を検討したのか。
今回は何を決める必要があるのか。
選択肢ごとに、費用とリスクはどう違うのか。
決めなかった場合に、何が起こるのか。
これを整理し、理事会全体に示すことです。
その支援が契約に含まれないなら、「できません」で終わらせるのではなく、現在の契約範囲と、追加で必要となる支援を明確にする必要があります。
5.KTCが見るのは、発言の多さではなく「情報の流れ」である
KTCが理事会へ参加するとき、発言の多い理事長を見て、確認するのは、主に次のような点です。
まず、議案が「報告」「協議」「決議」に分けられているか。
単なる報告事項なのに意見を求めたり、反対に重要な判断事項を報告として処理したりすると、役員は何を求められているのか分からなくなります。
次に、過去の検討経緯が資料に残っているか。
「以前検討した」という説明で終わらせず、検討時期、選択肢、採用しなかった理由を簡潔に記録します。新任役員がすべてを白紙から議論し直す必要はありませんが、過去の判断を検証できる状態は必要です。
さらに、議案書に管理会社や理事長の推奨案だけでなく、別の選択肢とその不利益が書かれているかを確認します。
選択肢が一つしかない議案は、決議の形式を取っていても、実際には承認を求めているだけです。
最後に、決議後の仕事が誰に割り振られているかを見ます。
理事会で決めた後、調査、業者連絡、見積取得、住民説明のすべてを理事長が行うなら、理事会の負担分散は進みません。
KTCが考える理事会支援は、会議を開くことでも、議事録を作ることだけでもありません。
経験や判断材料を理事長個人から管理組合の仕組みへ移し、役員が交代しても同じ水準で判断できるようにすることです。
6.理事長を交代させるか、続投させるかの二択ではない
理事会が機能していないと分かると、「理事長を交代させるべきだ」という意見が出ることがあります。
しかし、交代させれば解決するとは限りません。
過去の経緯が何も記録されていなければ、新しい理事長は事情が分からないまま判断を求められます。結局、前理事長へ何度も確認するか、管理会社に全面的に依存することになります。
一方で、長期理事長の続投を前提にする必要もありません。
本人の負担が限界に近い、他の役員との信頼関係が崩れている、重要な判断について説明できる資料が残されていない場合には、役職の変更も検討対象になります。
選択肢は、交代か続投かだけではありません。
理事長は続投するが、議案整理や進行を他の役員が補助する。
副理事長や担当理事に案件を割り振る。
重要案件だけ専門委員会を設ける。
外部のマンション管理士などに、一定期間だけ会議支援を依頼する。
管理会社との契約を見直し、資料作成や進行支援の範囲を明確にする。
理事長を退任してもらい、経験者として引継ぎに限定して関わってもらう。
マンションの規模、役員の能力、予算、対立の程度によって、適切な方法は異なります。
必要なのは、誰を残すかではなく、誰か一人がいなければ動かない状態をどう解消するかという視点です。
7.悪循環の最後に疑われるのは、理事長本人である
理事長に情報と実務が集中すると、他の役員はさらに発言しなくなります。
役員が発言しないため、理事長は自分で判断する。
理事長が自分で判断するため、役員は任せる。
管理会社は理事長の指示だけを受ける。
さらに理事長へ情報と負担が集中する。
この循環が続くと、長年真面目に対応してきた理事長ほど危険な立場になります。
特定の管理会社や施工会社との交渉経緯を理事長しか知らない。業者選定の理由が議事録に残っていない。相見積もりを取らなかった理由を、他の役員が説明できない。
実際に不正がなくても、後から見た区分所有者には、判断過程が見えません。
その結果、「管理会社と特別な関係があるのではないか」「施工会社と癒着しているのではないか」と疑われる可能性があります。
透明性を確保する目的は、不正を疑うことではありません。
長年働いてきた理事長を、根拠のない疑念から守ることでもあります。
理事長個人の誠実さに頼るのではなく、誰が見ても判断過程を確認できるようにする。それが管理体制を設計するということです。
次の理事会で確認してほしいこと
現在の理事会が機能しているかを確認するために、次の六点を見てください。
1.新任役員の質問に、資料を使って説明できているか
2.議案書に、過去の経緯と今回決める範囲が書かれているか
3.推奨案以外の選択肢と、その不利益が示されているか
4.理事長以外の役員が、決定理由を区分所有者へ説明できるか
5.決議後の実務が、理事長一人に集中していないか
6.管理会社に依頼している理事会支援業務の範囲が、契約上明確になっているか
理事会が機能しない原因を、理事長の性格だけに求めてはいけません。
制度上の権限、契約上の業務範囲、実際の会議運営、役員の感情、これまでに形成された人間関係を分けて整理する必要があります。
理事会を立て直す目的は、理事長の影響力を弱めることではありません。
理事長が持っている経験を管理組合の資産へ変え、他の役員も判断と実行に参加できる状態をつくることです。
KTCでは、人を交代させて一時的に問題を収めるのではなく、役員が交代しても運営が止まらない管理体制を設計することを重視しています。
理事会が形式的な追認の場になっていると感じたときは、まず人間関係を変えようとするのではなく、議案書、案件記録、役割分担、管理会社との契約範囲から確認することが、現実的な第一歩になります。

