マンション理事会がストレスになる本当の理由――人間関係だけでなく、「決め方」の問題
マンションの理事長だけでなく、理事に就任した人からも、
「理事会に出るのがしんどい」という話を聞くことがあります。
毎回、激しい対立が起きているわけではありません。
管理会社から出された議案をほとんど議論せず、そのまま承認して終わることもあります。
逆に、「それは前回も話したのではないか」
という内容を何度も繰り返し、誰も結論を出そうとしないこともあります。
理事長も議長であるはずなのに、議論が止まらない。
ある程度時間が経つと、
「そろそろ採決しましょうか」となる。
そして理事会が終わった後、
「結局、何のためにあれだけ話したのだろう」という疲労だけが残る。
こうした理事会のストレスは、しばしば「人間関係の問題」と説明されます。
確かに、それも一因です。
しかし、それだけでは説明できない部分もあります。
理事会を疲れる場所にしている大きな原因は、
誰が、何を根拠に、どの時点で決めるのかが曖昧なことです。
つまり、人間関係以前に、「決め方」が設計されていないのです。
まず区別するのは、「制度」「運営」「感情」です
理事会がうまくいかないとき、いくつかの問題が混同されがちです。
まず制度上の問題があります。
理事会で決められることなのか。
総会決議が必要なのか。
誰に権限があるのか。
規約上どのような手続が必要なのか。
これは、規約や法令、これまでの決議内容を確認して整理する問題です。
次に、運営上の問題があります。
資料はいつ配るのか。
何を比較するのか。
どこまで調査すれば判断するのか。
反対意見をどう扱うのか。
議論をいつ終了するのか。
こちらは制度ではなく、管理組合が決める「運営方法」の問題です。
そして最後に、感情や人間関係があります。
「この人に反対すると、明日から顔を合わせにくい」
「理事長を責めていると思われたくない」
「また細かいことを言う人だと思われたくない」
マンションでは、会議が終わっても人間関係は終わりません。
この三つを一緒にして、
「理事会は人間関係が難しいから仕方がない」
としてしまうと、改善できるはずの部分まで放置されてしまいます。
「運営」は、実は最も見直しやすいのです。
理事会当日に初めて考え始める仕組みでは、疲れて当然
例えば、理事会当日に突然、設備更新の見積書を渡されたとします。
「この設備を交換する必要があります。見積額は150万円です」
そこで初めて理事は考え始めます。
本当に交換が必要なのか。
修理では駄目なのか。
他社の見積りは必要ないのか。
予算はあるのか。
今年実施しなければ何が起きるのか。
管理会社に聞く。
担当者が説明する。
さらに質問が出る。
気がつけば30分、1時間と経っています。
時間がなくなり、
「今日は決められないので次回にしましょう」となる。
次回の理事会でも、前回の続きから始まる。
これは理事が優柔不断だからではありません。
判断するための材料が、判断する場までに整理されていなかっただけです。
しかし、だからといって、単純に大量の資料を事前送付すればよいわけでもありません。
50ページの資料をメールで送り、
「事前に確認してください」
では、今度は管理会社や理事会が行っていた整理作業を、各理事へ丸投げしただけになります。
KTCが重要だと考えているのは、資料の量ではありません。
例えば最低限、
「今回何を決めるのか」
「選択肢は何か」
「それぞれ何が違うのか」
「今回決めなかった場合に何が起きるのか」
までを整理しておく。
これだけでも、理事会で一から考え始める必要はかなり減ります。
会議を短くすることが目的ではありません。
会議に出た時点で、判断できる状態に近づけておくことが目的です。
「十分議論した」の基準が「時間」になってしまっている
理事会で、もう一つ気になるのが、
「かなり話したから、そろそろ採決しましょう」という進め方です。
これは一見合理的ですが、よく考えると不思議です。
1時間話したから十分に検討したとは限りません。
反対に、論点が整理されていれば10分で結論が出ることもあります。
例えば、駐車場料金の値上げを議論するとします。
「値上げに賛成か反対か」
だけを議題にすると、なかなか話は終わりません。
利用者は反対する。
管理組合の財政を心配する人は賛成する。
「今までこの金額だった」
「他のマンションはいくらだ」
と話が広がっていきます。
ところが、
現在の駐車場収支はどうなっているのか。
今後どの程度の修繕費が必要なのか。
値上げ以外に支出削減の余地はあるのか。
利用者負担と全組合員負担をどう考えるのか。
こうして論点を分けると、少なくとも「何について意見が違うのか」が見えてきます。
それでも意見が一致しないことはあります。
それ自体は問題ではありません。
管理組合は、全員の価値観を一致させるための組織ではありません。
必要な情報を確認し、意見を出し、そのうえで決定する組織です。
ところが、
「あと何を確認すれば決められるのか」
が決まっていなければ、慎重な人はいつまでも追加調査を求めます。
早く決めたい人は、
「もう十分でしょう」と言います。
すると、慎重派と積極派の性格対立に見えてきます。
しかし本当は、
議論を終える条件が決まっていないだけなのかもしれません。
しかし、効率化さえすればよいわけでもありません
理事会が長いからといって、
「資料を事前送付して、質問も事前に締め切り、当日は採決だけにしましょう」
とすればよいわけではありません。
それでは反対意見を出しにくくなる可能性があります。
特にマンションの場合、理事の知識や経験には差があります。
資料を読んでも分からなかったが、他の理事の質問を聞いて初めて問題に気づくこともあります。
議論には、その場で他人の意見を聞くことで判断を修正する機能もあります。
そのため、私たちは、「会議を短くすること」を目標とはしません。
目標は、
同じ話を何度も繰り返さず、必要な異論はきちんと出せる状態にすることです。
効率と合意形成は、どちらか一方を選ぶものではありません。
両方を成立させるために、決め方を設計する必要があります。
人間関係はストレスの原因ですが、同時に防波堤でもあります
では、人間関係はどう考えるべきでしょうか。
マンションでは、異論を言いにくいという問題があります。
会社の会議であれば、
「その案には反対です」
と言える人でも、マンションでは少し違います。
相手は隣に住んでいる人かもしれません。
翌朝、エレベーターで会うかもしれません。
そのため、
「ここまで言わなくてもいいか」
「理事長の顔をつぶしたくない」
「今後気まずくなるのは嫌だ」
という心理が働きます。
これは確かに理事会のストレスになります。
しかし、私たちは、実際の管理組合運営に関わる中で、逆の現象を経験しています。
人間関係がほとんど存在しない管理組合の方が、大きな問題になることがあるのです。
それは、区分所有者の多くがマンション外に住み、現地に来ることはほとんどない投資型のマンションでした。
そこでは区分所有者同士はお互いを知りません。
理事長が普段どのような仕事をしているのか。
現場で何が起きているのか。
誰がどのような経緯でその発言をしているのか。
それらを日常生活の中で確認することができません。
すると、ある日届いた一枚の文書やメールだけで、
「マンションでは大変な問題が起きているらしい」と判断してしまうことがあります。
一部の区分所有者から発信された情報にも関わらず、
現場を知らない多くの所有者はそのまま受け止め、管理組合全体の意思決定に影響を及ぼしかねない状況になりました。
日頃顔を合わせるマンションなら、
「説明されている内容と、自分が見ている現場は少し違う」と気づけることがあります。
ある人の発言についても、
「なぜこの人がこう言っているのか」という背景を、完全ではなくても推測できます。
これは正式な制度ではありません。
しかし、こうした日常的な接点が、
極端な情報だけで管理組合が動いてしまうことを防ぐ、非公式な安全装置になっているのです。
人間関係には二つの顔があります。
濃すぎれば、異論を言いにくくなる。
薄すぎれば、情報の真偽を確認しにくくなる。
必要なのは、「人間関係に依存しなくても決められる仕組み」
私たちは、理事長の能力で理事会をうまく回すことを、最終的な解決策とは考えていません。
話をまとめるのが上手な理事長ならうまくいく。
交渉力のある理事がいれば問題ない。
それでは、その人が退任した瞬間に元へ戻ります。
管理組合は、毎年役員が変わることも珍しくありません。
必要なのは、
誰が理事長になっても、一定の水準で判断できる仕組みです。
例えば、
議題ごとに「今回決めること」を明確にする。
判断材料を事前に整理する。
不足している情報があれば先に確認する。
賛成・反対だけでなく、反対理由も把握する。
追加調査が必要なら、何を確認すれば議論を終えられるのか決める。
決定した理由を記録しておく。
そして、管理会社が説明する範囲と、管理組合自身が判断する範囲を分ける。
ここまで整理されていれば、理事長が毎回すべてを背負う必要はありません。
管理会社も、
「理事会で説明したから責任は果たした」で終わらずに済みます。
理事も、
「よく分からないけれど、みんな賛成しているから」で決める必要がなくなります。
次の理事会で、人ではなく「決め方」を見てください
理事会に出るたびに疲れる。
同じ話を何度も繰り返している。
議論した割には、なぜその結論になったのか分からない。
そのような場合、まず誰かを責める必要はありません。
理事長の進行が悪い。
理事が非協力的だ。
管理会社の担当者が頼りない。
そう結論づける前に、一度「決め方」を確認してみてください。
次回の理事会について、少なくとも次の点は確認できます。
・今回、何を決めるのか
・その判断に必要な情報は揃っているか
・当日初めて見る資料はないか
・選択肢とそれぞれの違いは整理されているか
・反対意見を出しても議論できる状態になっているか
・追加調査が必要なら、何を確認すれば判断できるのか
・誰がどこまで決めるのか明確になっているか
・決定した理由を次の役員へ引き継げるか
一つでも曖昧なら、理事会のストレスは、単なる人間関係の問題ではないかもしれません。
管理組合の運営方法そのものに、改善できる部分があります。
理事会を楽しい場所にする必要はないと思います。
しかし、毎回同じことを話し、誰か一人が疲れ、最後は雰囲気で決まる。
そんな状態を続ける必要もありません。
管理組合に必要なのは、特別に優秀な理事長ではなく、
普通の人が役員になっても、必要な情報を確認し、意見を出し、最後には決められる管理体制です。
関西建物センターでは、管理会社への全部委託だけを前提にせず、理事会の進め方や役割分担、情報整理を含めた管理体制についてもご相談を受けています。
理事会が長い、決まらない、役員の負担が大きいという場合は、人を変える前に、一度「どう決めているか」を確認してみてください。
