自主管理マンションで会計だけ外注しても、管理が回らないのはなぜか
――会計処理は正しくても、役員が疲弊してしまう理由
自主管理マンションで、役員の負担を軽減するために、会計業務を外注することがあります。
管理費等の入金管理や毎月の収支報告書、決算書の作成などを専門業者に任せれば、役員の仕事は減るはずです。
ところが、会計処理に問題がないにもかかわらず、管理組合の運営がうまくいかなくなることがあります。
実際に、会計業務を外注したマンションで、担当役員が総会で厳しく質問され、説明に窮するということがありました。
外注先の会計処理が間違っていたわけではありません。
それでも、問題が起きたのです。
これは、外注する業務の範囲だけでは説明できない、自主管理マンション特有の難しさを示しています。
業務を外注すれば、その業務に必要な作業や専門知識を外部に求めることはできます。
しかし、役員に何を期待するのか、組合員同士がどのような関係で管理組合を運営するのかという問題までは、外注できないのです。
今回は、実際に見られた事例をもとに、なぜこのような問題が起きるのか、管理組合として何を見直すべきなのかを考えます。
1.会計業務の外注はできた。それでも問題は終わらなかった
ある自主管理マンションで、会計業務を外注することになりました。
もっとも、その決定に至るまでの総会でも、かなりの議論がありました。
これまで自分たちで行ってきた仕事に、なぜ費用をかける必要があるのか。
会計ができる組合員もいるのだから、引き続き自分たちで行えばよいのではないか。
そのような意見が出ることは当然理解できます。
しかし、これまで会計を担当してきた人ができるからといって、次の役員も同じようにできるとは限りません。
会計の知識も経験も、組合員によって異なります。
それでも、何とか合意が得られ、会計業務の外注が始まりました。
会計処理は問題なく行われました。
ところが、今度は会計担当役員の仕事が問題になりました。
会計業務を外注したのだから、会計担当役員は何をするのか。
ある年度の会計担当役員は、外注先が作成した資料をチェックしていました。
次の年度の会計担当役員は、専門業者に委託しているのだから、基本的には任せればよいと考えました。
どちらの年度も、会計処理自体に問題はありませんでした。
しかし、後者の年度の総会で問題が起きました。
会計について詳しい組合員が、会計担当役員に対して、会計処理の内容や適切性について厳しく質問したのです。
ところが、担当役員自身には、専門的な会計処理について十分な知識がありません。
だからこそ、外注先に任せていたのです。
結果として、会計処理には問題がないのに、会計担当役員が説明に窮するという事態になりました。
ここで考えたいのは、会計担当役員がもっと勉強すべきだったのか、ということではありません。
会計業務を外注することには合意したのに、外注した後の役員の役割については、組合員の間で認識が一致していなかったのではないか。
まず、そこを考える必要があります。
2.会計の正しさと、担当役員の説明責任は別の問題
このような場面では、質問する組合員にも言い分があります。
会計担当役員なのだから、会計の内容を把握しておくべきだ。
総会で会計報告をする以上、質問には答えるべきだ。
確かに、その考え方にも一理あります。
会計業務を外注したからといって、管理組合の役員としての役割までなくなるわけではありません。
国土交通省のマンション標準管理規約でも、会計担当理事の職務や監事の監査、理事長による決算報告などが定められています。
ここで区別したいのは、会計処理を行うこと、処理内容を確認すること、管理組合として支出を判断すること、そして総会で説明することです。
例えば、修繕工事の支出があったとします。
その工事を実施することを誰が決めたのか。
予算や決議に沿った支出だったのか。
こうした問題は、管理組合の意思決定に関するものです。
一方、その支出をどの勘定科目で処理したのか、会計処理として適切だったのかという問題は、専門的な会計業務に関するものです。
両者は関連していますが、同じではありません。
会計担当役員に必要な確認を求めることと、外注先が行ったすべての専門的処理を役員自身に説明させることは、分けて考えるべきでしょう。
質問する組合員の権利を制限する必要はありません。
むしろ、質問に対して正確に回答できる体制を整える必要があります。
問題は、質問する側が期待する説明水準と、役員が実際に引き受けられる業務の水準が違っていることです。
それを放置したまま、役員個人の能力や努力によって解決しようとすると、次の役員にも同じ問題が発生します。
3.輪番制による公平性が、かえって役員のなり手を減らす
さらに、この問題を難しくしているのが、輪番制です。
会計担当役員に厳しく質問する組合員も、かつては役員を経験しています。
その人が担当したときには、会計業務をきちんと行っていました。
だから、次の役員にも同じことを求める。
質問している本人からすれば、当然の要求なのかもしれません。
ところが、役員の能力や経験には差があります。
会計に詳しい人もいれば、初めて決算書を見る人もいます。
仕事や家庭の事情で、役員業務に使える時間も違います。
それでも、役員の選任については、公平性を理由に輪番制が維持されます。
経験者が何度も役員を引き受けるのは不公平だという主張にも、理由はあります。
また、同じ人物が長期間理事長を務めることには、権限の集中や運営の不透明化という別の問題もあります。
したがって、輪番制を否定することが解決策とはなりません。
ここで問題になるのは、役員になる順番は公平でも、役員に求める能力や負担が公平とは限らないということです。
経験者にとっては当たり前のことが、新任役員にはできない。
それを補うために外注したのに、外注後も経験者と同じ能力を求められる。
これでは、何のために外注したのかわからなくなります。
さらに、厳しく指摘する側は、自分が担当していたときにはできていたという自負があります。
一方、指摘される側は、できないからこそ外注しているのに、それでも責められると感じる。
この認識の違いが、人間関係の悪化につながります。
結果として、役員は、自分の担当以外にはできるだけ関わらないようになります。
余計なことを提案すれば、仕事が増えたり、批判されたりするかもしれないからです。
こうして、表向きは公平な輪番制が維持されていても、管理組合全体の運営に関心を持つ人が減っていくのです。
4.善意で就任した理事長まで、追い詰められてしまう
別の場面でも、似たような問題がありました。
物件を購入して間もない組合員が、輪番制によって理事長に就任しました。
自主管理マンションでは、長年の経験によって引き継がれてきた慣習が少なくありません。
そのため、新しく購入した組合員には、理事長として何をすればよいのか、何を誰に相談すればよいのか、わからないことがあります。
それでも、就任した理事長は、できる限り任期を全うしようとしていました。
しかし、仕事や家庭の事情などで、どうしても理事会に出席できないことがあります。
理事長が理事会を招集する立場であれば、開催日程についても、理事長の事情を考慮して調整することが可能でしょう。
もちろん、一方的に日程を決めてよいわけではありませんし、ほかの役員との調整や、管理規約に沿った招集手続きが必要です。
それでも、理事長なのだから出席してもらわなければ困る、という意見が出てきます。
その要求にも一理あります。
しかし、出席できない事情を抱えた理事長に、出席するべきだと繰り返し要求しても、問題は解決しません。
必要なのは、どうすれば理事会を開催できるのか、理事長が欠席する場合にどう対応するのかを考えることです。
自主管理マンションでは、長年の近隣関係が管理組合運営を支えていることがあります。
その一方で、昔からの慣習や、組合員同士の人間関係によって、新しい運営方法への変更が難しくなる場合もあります。
そこでは、規約上の正しさだけで物事が進むとは限りません。
結果として、善意で理事長を引き受けた人が、もう二度とやりたくないと思ってしまう。
これは、その人の責任感が不足していたからなのでしょうか。
そうではなく、普通の組合員が引き受けられる役割と、周囲が理事長に求める役割との間に、大きな隔たりがあったからではないでしょうか。
5.本当の問題は、業務ではなく「人心」にあるのか
このような事例を見ると、自主管理マンションの問題は、業務の外注だけでは解決できないことがわかります。
専門家を入れればよい、という意見もあります。
確かに、専門家は、会計や管理規約の問題を整理できます。
理事会の運営方法についても、助言することができます。
しかし、専門家が正しい説明をしたからといって、組合員が必ず納得するわけではありません。
経験者には経験者の考えがあります。
新任役員には新任役員の事情があります。
役員を引き受けない組合員にも、それぞれの理由があります。
このような人間関係の中では、誰の言い分が正しいかを決めるだけでは、対立は解消しません。
では、合意形成ができる人物を探せばよいのでしょうか。
それも一つの方法です。
管理組合の中に、信頼され、意見の異なる組合員の間を調整できる人がいれば、運営は円滑になる可能性があります。
しかし、その人がいなくなったらどうなるのでしょうか。
これまで多くの自主管理マンションでは、特定の経験豊富な組合員が運営を支えてきました。
そして、その人が高齢化したり、役員を退任したりすることで、管理組合運営が難しくなったりしています。
つまり、合意形成ができる人物に頼ることも、別の属人化を生む可能性があるのです。
ここに、自主管理マンションの難しさがあります。
仕組みが必要なのは確かです。
しかし、その仕組みを導入すること自体に反対があれば、仕組みは作れません。
合意形成が必要なのですが、合意形成を担える人物がいない。
業務の問題だと思って外注したところ、実際には組合員同士の期待や価値観の違いが問題だった。
そのような管理組合では、外注先を増やす前に、運営方法についての合意を作り直す必要があるのではないでしょうか。
ただし、専門家が無力というわけではありません。
必要なのは、正解を示すだけの専門家ではなく、異なる意見を整理し、管理組合が自分たちで判断できるよう支援する役割です。
その支援にも限界はあります。組合員自身に話し合う意思がなければ、専門家だけで合意を成立させることはできません。
6.外注業務を増やす前に何を確認するか
私たちが、このような管理組合の運営方法を検討するのであれば、最初から会計業務の外注範囲を増やすことを提案するのではなく、まず問題がどこで発生しているのかを確認します。
今回の事例では、会計処理自体には問題がありませんでした。
したがって、会計業務をさらに外注しても、それだけで問題が解決するとは考えにくいのです。
まず確認したいのは、会計担当役員がどこまでの役割を求められているのかということです。
例えば、外注先が作成した収支報告書について、預金残高との整合性や未収金、予算との差異などを確認することは考えられます。
しかし、どの資料を、どの頻度で、どこまで確認するのか。
不明な点があったときには、誰に問い合わせるのか。
外注先が行った会計処理について、誰が専門的な説明を担当するのか。
こうしたことが決まっていなければ、会計担当役員の負担は、担当する人によって大きく変わってしまいます。
次に確認したいのが、質問する組合員の意図です。
会計処理そのものに疑問があるのか。
会計担当役員が十分に確認していないことを問題にしているのか。
それとも、会計業務を外注すること自体に、今も納得していないのか。
この違いは重要です。
会計処理に疑問があるなら、外注先から説明を受ける方法があります。
役員の確認方法が問題なら、理事会で確認事項を決める必要があります。
外注すること自体に納得していないのであれば、費用と負担の関係を改めて説明する必要があるでしょう。
同じ質問に見えても、問題の所在によって対応は異なります。
そして、もう一つ確認すべきことがあります。
それは、その管理組合が今後も輪番制を続けるのであれば、経験の少ない組合員でも役員を務められる運営方法に変える意思があるのか、ということです。
ここに合意がなければ、外注業務の範囲を明確にしたとしても、従来と同じ水準を役員に要求する人が残り、同じ問題が繰り返される可能性があります。
全員の考えを一致させる必要はありません。
例えば、会計担当役員の確認事項を理事会で決め、専門的な質問については外注先に照会して回答する。
総会で回答できない質問については、質問内容と回答予定を記録する。
役員が欠席する場合の対応を、あらかじめ決めておく。
そうした具体的な運営方法について合意できれば、組合員の考え方が違っていても、管理組合を運営することは可能です。
重要なのは、人間関係を良くすることではなく、意見の違う組合員がいても、特定の役員に負担が集中しない運営方法をつくることです。
7.自主管理を続けるために、管理組合が確認すべきこと
自主管理マンションに問題があるからといって、必ずしも管理会社に全面委託する必要はありません。
自分たちで建物を管理し、費用を抑え、住民の意見を運営に反映できることは、自主管理の大きな利点です。
会計業務だけを外注する方法が適している管理組合もあります。
一方で、部分的な外注によって仕事は減ったものの、役員への要求が変わらず、運営が難しくなる管理組合もあります。
その違いは、業務量だけでは判断できません。
管理組合として、次の点を確認してみてください。
- 外注した業務について、役員には何を確認してもらうのか。
- 総会で質問が出たとき、役員と外注先のどちらが、何を説明するのか。
- 経験豊富な組合員と新任役員とで、役員に求める能力や負担について認識が違っていないか。
- 役員が欠席したり、業務を十分に理解できなかったりした場合の対応方法があるか。
- 現在の運営を支えている特定の組合員がいなくなっても、次の役員が業務を引き継げるか。
この確認によって、改善すべきことが見えてきます。
会計担当役員の役割を整理するだけで改善する場合もあるでしょう。
理事会や総会の進行を外部専門家に支援してもらう方法もあります。
役員の負担が大きすぎるのであれば、会計以外の業務についても部分的な外注を検討できます。
一方、外部への委託を増やす費用が負担となる場合には、役員数や開催頻度、業務の進め方を見直すという選択肢もあります。ただし、法令や管理規約で必要とされる手続きまで省略することはできません。
いずれの方法を選ぶ場合でも、管理組合内部の合意が必要です。
今回紹介した事例で、最も重要なのは、会計処理自体には問題がなかったということです。
管理業務を適切に処理していても、役員が疲弊することがあります。
そして、役員を引き受ける人が減り、経験者も新任役員も、自分の担当業務以外には関わりたくなくなる。
そのような状態になれば、修繕計画や将来の資金不足など、管理組合全体で考えるべき課題が後回しになるおそれがあります。
自主管理マンションが行き詰まるのは、管理業務ができなくなったときだけではありません。管理業務はできているのに、誰も管理組合の運営を引き受けたくなくなったときにも、行き詰まるのです。
自主管理を続けるために必要なのは、特別に能力の高い理事長や、誰からも信頼される人物を探すことではありません。
経験の少ない組合員でも、支援を受けながら役員を務められること。
正当な質問には答えながらも、役員個人に過度な負担をかけないこと。
そして、異なる意見があっても、管理組合として必要な判断を続けられること。
こうした管理体制を整えることが重要です。
制度や契約だけでは、人の気持ちは変わりません。
しかし、人の気持ちが変わることを待っているだけでも、管理組合の問題は解決しません。
人間関係の難しさを前提として、それでも運営が続けられる方法を考える。
それが、これからの自主管理マンションに求められることではないでしょうか。
株式会社関西建物センター(KTC)では、自主管理マンションの会計業務や役員負担について、現在の管理方法を活かしながら、継続できる管理体制を検討する支援を行っています。外注範囲や管理組合の運営方法でお困りの場合は、ご相談ください。

