自主管理マンションの会計担当者が退任――決算書を作れる人がいなくなったらどうするか
自主管理マンションで、長年会計を担当していた役員が病気のため急きょ退任することになりました。
通帳は引き継いだものの、帳簿の作り方が分かりません。毎月の管理費や修繕積立金が正しく入金されているのか、業者への支払が済んでいるのかも分からない状態です。
しかも、数か月後には決算を迎えます。
「このままでは決算書が作れない」
「次の総会で会計報告ができないのではないか」
理事長としては不安になるでしょう。
しかし、このようなとき、最初から決算書の作成に取りかかることが最適とはいえません。
管理組合の会計には、毎月のお金の出入りを管理する仕事と、その結果を帳簿にまとめ、決算書を作成する仕事があります。
会計担当者が突然いなくなった場合、まず優先すべきなのは、管理組合のお金の流れを止めないことです。
そして、現在のお金の状況を確認したうえで、決算書を作成できる状態へ戻していきます。
今回は、自主管理マンションで会計担当者が突然退任した場合に、管理組合がどの順番で何を確認すべきか、実務の視点から考えてみます。
1.まず確認するのは、次の入金と支払ができるか
会計担当者が退任すると、まず通帳を預かることになるでしょう。
しかし、通帳を引き継いだだけでは、会計業務を引き継いだことにはなりません。
例えば、毎月の管理費等は、誰が入金を確認しているのでしょうか。
口座振替を利用している場合、誰が振替結果を確認し、振替できなかった住戸を把握しているのでしょうか。
業者への支払も同様です。
請求書は誰に届き、誰が内容を確認し、誰が銀行振込を行っていたのでしょうか。
まず、次の1か月程度の入金予定と支払予定を確認する必要があります。
同時に、管理組合が所有するすべての預金口座、通帳、届出印、インターネットバンキングの利用権限なども確認します。
ここで重要なのは、内容が分からないからといって、すべての支払を止めてしまわないことです。
例えば、毎月の清掃業務や設備点検など、契約内容と請求額が確認できる支払は、所定の承認を経て継続する必要があります。
一方、請求内容が不明なものや、必要な承認を受けているか確認できない支払については、調査が必要です。
支払を遅らせることで問題が生じる場合もありますから、確認に時間がかかる場合は、支払先に事情を説明することも必要です。
最初の仕事は、帳簿を完成させることではなく、入金と支払を正常に続けられる状態を確保することです。
なお、会計担当理事が退任する場合、後任者の選任手続きも必要です。
ただし、ここでいう役員の選任手続きと、日常の会計作業を誰が行うかという問題は、分けて考える必要があります。
2.先月末時点で、預金・未収金・未払金を確認する
次に行うのが、現在の会計状況の把握です。
最初から年度初めにさかのぼって帳簿を作り直そうとすると、時間がかかります。
まず、先月末を基準日として、次の3つを確認します。
① 預金残高
管理組合が所有するすべての口座について、先月末の残高を確認します。
普通預金だけでなく、定期預金や現金があれば、それらも把握します。
また、管理費会計と修繕積立金会計の資金が、それぞれどのように管理されているのかも確認します。
② 未収金
管理費、修繕積立金、駐車場使用料などについて、先月末までに入金されるべき金額のうち、まだ入金されていないものを確認します。
誰が、何月分を、いくら滞納しているのか。
管理費と修繕積立金、各使用料の内訳まで確認することが必要です。
③ 未払金
先月末までに業務や工事が完了しているものの、まだ支払っていない費用を確認します。
支払先、業務内容、金額、支払予定日を整理します。
ただし、これらの数字がすぐに確定するとは限りません。
例えば、請求書が届いていない工事代金があるかもしれません。
また、未収金の一覧表が古く、すでに入金済みの金額が残っている可能性もあります。
そのため、最初からすべての数字を確定させようとせず、確認できたものと、まだ確認できていないものを区別します。
ここが重要です。
確認できない数字を無理に合わせてはいけません。
分からないものは未確認として記録し、何を調べれば確定できるのかを明らかにします。
3.通帳の入金額が合っていても、未収金が隠れていることがある
ここで、具体的な例を考えてみましょう。
20戸のマンションで、各住戸が毎月、管理費と修繕積立金を合わせて20,000円支払っているとします。
毎月の請求総額は40万円です。
通帳を確認すると、その月の入金合計も40万円でした。
それなら問題ないのでしょうか。
実は、そうとは限りません。
例えば、101号室が20,000円を滞納している一方、202号室が翌月分20,000円を前払いしていたとします。
すると、当月の入金合計は40万円になります。
しかし、101号室の未収金20,000円は残ったままです。
202号室には翌月分の前受金20,000円があります。
このように、入金合計と請求総額が一致していても、住戸ごとの入金状況が正しいとは限りません。
そのため、通帳残高だけで会計を確認するのではなく、各住戸の請求額と入金額を照合する必要があります。
また、同じ住戸でも、管理費は支払っているが、駐車場使用料だけが未払いという場合もあります。
あるいは、駐車場を解約しているにもかかわらず、従来の使用料が請求され続けている可能性もあります。
こうした問題を確認するためには、住戸別の請求・入金明細が必要です。
最低限、住戸番号、請求年月、管理費等の内訳、入金額、未収残高が分かる資料を用意したいところです。
この資料がなければ、過去の入金履歴や契約内容を確認しながら、改めて作成する必要があります。
通帳だけでは入金の内訳は不明瞭です。
決して推測で入金先を決めるのではなく、確認すべき事項として残してください。
会計担当者が退任した際、本当に困るのは帳簿の計算方法が分からないことだけではありません。
何を根拠に、その金額を請求し、入金処理していたのか分からなくなることです。
4.支払については、予算だけでなく工事の実施状況も確認する
支払についても、通帳に記録されている出金額だけでは判断できません。
例えば、共用部分の照明器具を交換する工事を発注したとします。
工事費は10万円です。
ところが、通帳にはまだ出金がありません。
では、未払金として10万円を計上すべきでしょうか。
ここでは、工事が完了しているかどうかが重要になります。
すでに工事が完了し、代金が未払いであれば、原則として未払金を把握する必要があります。
一方、発注しただけで工事が始まっていない場合には、通常、工事代金の全額を未払金として計上するわけではありません。
その場合は、今後の支払予定として管理することになります。
また、前払金などがあれば、さらに別の処理が必要になります。
さらに、支払については年間予算を確認する必要もあります。
しかし、予算に計上されているからといって、すべての支出が認められるわけでもありません。
例えば、年間修繕費として100万円の予算が承認されていても、その範囲内なら誰でも自由に工事を発注できるわけではありません。
必要な理事会決議や総会決議が行われているか、確認する必要があります。
反対に、予算に計上されていない支出であっても、緊急修繕など、一定の条件で認められる場合もあります。
つまり、支出には二つの確認が必要となります。
一つは、会計上、いつ、いくら計上すべきかという確認です。
もう一つは、管理組合として、その支出が適切な手続きを経ているかという確認です。
前者は会計処理の問題であり、後者は管理組合の意思決定の問題です。
両者を
両者は混同してはいけません。
会計担当者にすべての支出判断を任せてしまえば、その人が退任したとき、何を根拠に支払っていたのか分からなくなります。
5.会計復旧のために、まず3つの一覧表をつくる
では、会計の知識がない理事長や役員は、具体的に何を準備すればよいのでしょうか。
最初から複雑な会計ソフトを使う必要はありません。
私たちは、まず次の3つの資料を整理するところからお勧めします。
① 入出金予定表
今後の管理費等の入金予定日、業者への支払予定日、予定金額、実際の入出金額を記録するものです。
これによって、今月のお金の流れを把握します。
② 住戸別請求・入金一覧表
各住戸の管理費、修繕積立金、各使用料の請求額と入金額を記録します。
未収金だけでなく、前受金がある場合も区別します。
③ 未払金・支払確認表
支払先、業務内容、金額、工事や業務の完了状況、承認状況、支払予定日を整理します。
それぞれについて、確認済みなのか、金額だけ判明しているのか、根拠資料が不足しているのかを区別します。
例えば、次のような整理です。
| 確認事項 | 状況 | 次の対応 |
|---|---|---|
| 清掃費5万円 | 契約・完了を確認済み | 支払手続きを確認 |
| 修繕費10万円 | 工事完了、金額は暫定 | 請求書を取得 |
| 101号室未収2万円 | 入金履歴と請求額を確認済み | 督促状況を確認 |
| 駐車場使用料 | 解約日が不明 | 契約書を調査 |
※金額・状況は一例です。
この段階では、正式な決算書を完成させることが目的ではありません。
何が確認できていて、何が未確認なのかを、理事会で共有できる状態にすることが目的です。
そして、未確認事項については、誰が、何を、いつまでに調べるのかを決めます。
会計担当者一人に作業を集中させるのではなく、銀行関係、業者への確認、住戸別の請求状況などを分担してもよいと思います。
6.決算書を作る人が見つからないことと、自主管理を続けられないことは別問題
私たちが相談を受けた自主管理マンションでも、会計業務の担当者を確保することが難しくなった事例があります。
また、会計業務だけを外部へ委託していても、未収金への対応や役員間の連絡が十分に行われず、管理組合の運営に問題が残っていた事例もあります。
これらは、今回の病気による突然の退任とは異なる事例ですが、共通する課題があります。
それは、会計の計算を誰が行うかという問題と、管理組合として何を判断するかという問題が、整理されていないことです。
例えば、会計業務を外注すれば、毎月の帳簿や決算書は作成できるかもしれません。
しかし、滞納者への督促を誰が行うのか、予算外の支出を誰が承認するのかが決まっていなければ、管理組合の問題は残ります。
一方、会計担当者が退任したからといって、すべての管理業務を外注する必要があるわけでもありません。
役員に会計の知識があり、十分な資料が残されているのであれば、内部で引き継ぐことも可能でしょう。
毎月の記帳は役員が行い、決算書の作成だけを専門家へ依頼する方法もあります。
また、毎月の入金管理から決算書作成まで、継続的に外部へ委託する方法もあります。
ただし、今回のように帳簿の状況が分からない場合は、通常の会計委託とは別に、過去の取引を調査する作業が必要になります。
その場合には、復旧作業にかかる費用と、その後の継続的な委託費用を分けて検討することになります。
問題なのは、管理組合に会計が分かる人がいないことではありません。
会計を引き継ぐための資料がなく、誰が何を確認すればよいか分からないことです。
7.最後に――次の会計担当者が退任しても困らない状態を目指す
会計担当者が突然退任した場合、管理組合が最初に確認すべきことを整理します。
まずは、今月の入金と支払です。
管理費等の徴収が正常に行われるか。業者への支払が滞らないか。
次に、先月末時点の預金残高、未収金、未払金を確認します。
そのうえで、前年度の決算書や過去の帳簿を使い、現在までの取引を確認していきます。
そして、調査しても分からない数字が残った場合には、何が未確認なのかを明らかにして、理事会や監事と共有します。
管理組合の決算書は、最終的に監事の会計監査を経て、総会で承認を受けるものです。
正確な数字を確認することは大切ですが、決算書を完成させるためだけに、根拠のない数字を使ってはいけません。
一方で、帳簿を復元できたとしても、次の担当者が同じ作業を引き継げなければ、再び同じ問題が起こります。
今後は、住戸別の入金状況、未収金、未払金、予算と実績、預金残高などを、毎月確認できる資料として残すことが重要になります。
会計担当理事がすべてを理解し、すべての作業を行う必要はありません。
会計に詳しくない役員でも、お金の状況を確認し、必要な判断を管理組合として行えること。
それが、自主管理マンションの会計を継続させるために最も必要なことではないでしょうか。
株式会社関西建物センター(KTC)では、自主管理マンションの会計状況の整理や、会計担当役員にも分かりやすい月次資料の作成、会計業務の部分委託などについてご相談を承っています。

