マンション管理は誰の責任なのか

大規模修繕工事が終わった後になって、

「この工事は本当に必要だったのか」

「もっと安い会社があったのではないか」

「なぜこの仕様にしたのか」

「理事会は何を確認していたのか」

といった意見が出ることがあります。

もちろん、工事の不備や不適切な契約について検証することは必要です。

しかし、マンション管理の現場で難しいのは、こうした意見の多くが結果が分かった後から、過去の判断を評価する形になることです。

工事前には積極的に検討へ参加していなかった人から、工事後になって「こうすべきだった」と言われることもあります。

そこで理事会側が「そこまで言うなら、一度役員をやってみてください」と言うと、実際に役員へ就任する。

それ自体は決して悪いことではありません。

むしろ管理組合に参加する人が増えることは望ましいことです。

ところが、自分が判断する立場になって初めて分かることがあります。

マンション管理には、事前には正解が分からない問題が非常に多いのです。

KTCが管理組合の運営に関わる中でも、この「結果を知ってから過去を裁く」という構図は、大規模修繕に限らず、設備更新、植栽、管理費、修繕積立金、管理会社変更など、さまざまな場面で見られます。

そして、この構図を放置すると、管理組合は次第に何も決められなくなっていきます。

1.「責任を取れるのか」という言葉が、管理を止めてしまう

例えば築年数が進み、ある設備について専門業者から、

「まだ使用できるが、そろそろ更新を検討した方がよい」という報告があったとします。

ここで理事会が更新を提案すると、

「まだ壊れていないのに交換する必要があるのか」

「更新時に何か事故があったら、誰が責任を取るのか」

という意見が出る。

では仮に、更新工事を見送ったとします。

数年後、設備が故障して緊急工事になれば、

「なぜ早く交換しなかったのか」という話になる。

どちらを選んでも、結果から遡れば批判することはできます。

そのため理事会が「余計なことをしない方が安全だ」と考えるようになることは多々あります。

これを、KTCは警戒します。

漏水してから配管を直す。

故障してから設備を更新する。

修繕積立金が不足してから値上げする。

役員がいなくなってから管理方式を考える。

つまり、建物も組織も対症療法だけで維持するマンションになってしまうからです。

予防的な管理とは、まだ問題が表面化していない段階で判断することです。

当然、不確実性があります。

だから必要なのは「絶対に間違えない人」ではありません。

不確実な中でも、合理的に決められる仕組みです。

2.「理事長に責任がある」「総会に責任がある」だけでは整理できない

ここで、責任という言葉を整理する必要があります。

マンション標準管理規約では、役員は法令、規約、総会・理事会の決議に従い、組合員のため誠実に職務を遂行するとされています。また、理事長は管理組合を代表して業務を統括し、理事会には一定の業務執行を決定し、理事の職務執行を監督する役割があります。

したがって、理事長には何の責任もないという説明は正確ではありません。

必要な手続きをしなかった。

重要な情報を意図的に示さなかった。

総会決議に反する契約をした。

利益相反を隠していた。

このような場合まで、総会で決めたから関係ない、とは言えないからです。

一方で、理事長が適切な手続きを踏んだからといって、工事や設備更新の結果まで保証できるわけではありません。

これは、別の問題です。

理事長や理事会にあるのは、結果を保証する責任ではなく、与えられた職務を適切に遂行する責務です。

そして、長期修繕計画、予算、修繕積立金、管理委託契約その他の重要事項については、標準管理規約上、総会の決議を経る仕組みになっています。

つまり、

総会は意思決定をする。
理事会は必要な検討と業務執行を行う。
理事長はその職務を統括する。
管理会社は契約した業務と意思決定の支援を行う。

管理組合運営の役割をそれぞれに分けて整理した方が、実務にはよく合います。

3.本当に問うべきなのは「誰が悪いか」ではない

例えば、大規模修繕工事の場合を考えてみます。

仮に工事完了後に不具合が発覚したとして、

「理事長が悪い」

「管理会社が悪い」

「工事会社が悪い」

と最初から責任者を一人に決めてしまうと、原因を見誤ります。

確認すべきなのは、

工事前にどのような劣化調査をしたのか。

修繕範囲はどう決めたのか。

複数の選択肢を比較したのか。

工事会社の選定方法は妥当だったのか。

価格以外の条件も確認したのか。

専門家の意見をどのように扱ったのか。

理事会ではどこまで検討したのか。

総会にはどのような資料を示したのか。

工事中の検査体制はどうなっていたのか。

という意思決定と執行の過程です。

十分な検討をした結果、それでも予測できない問題が発生したのであれば、それは「誰かが責任を取れば終わる問題」とは限りません。

反対に、工事そのものに問題がなくても、比較資料がほとんどなく、理事長一人と管理会社だけで話を進めていたなら、管理体制として改善すべき点があります。

結果だけではなく、結果に至るまでの仕組みを確認する必要があります。

4.反対する人にも役割があるが、「反対」と「責任追及」は異なるもの

反対意見を排除すれば管理組合がうまくいく、ということではありません。

むしろ大規模修繕工事のように数千万円、場合によってはそれ以上のお金を使う案件では、

「本当に今やる必要があるのか」

「別の工法はないのか」

「もっと調査してからでもよいのではないか」

という反対意見は重要です。

理事会や管理会社が見落としている問題を発見することもあります。

ただ、建設的な反対意見には一つだけ条件があります。

判断する時点で議論に参加することです。

事前に、

「この選択肢にはこういうリスクがある」

「この資料が不足している」

「この条件を確認してから決めたい」

と意見を出す。

そして最終的に自分の意見と違う結論になったとしても、管理組合として決めた結果を受け止める。

後から結果だけを見て、あの判断は間違っていた、と言うこととは違います。

マンション管理では、この違いを組合員に理解してもらうことが非常に大切です。

これは法令だけで解決できるものではありません。

規約をどれだけ細かくしても、「自分も共同所有者として判断に参加している」という意識までは規定できないからです。

いわば、管理組合における意思決定文化の問題です。

5.小規模マンションは難しい。しかし、強みもある

この点では、小規模マンションには興味深い特徴があります。

戸数が少ないほど、一人の意見が管理組合全体に与える影響は大きくなります。

10戸のマンションで1人が強く反対することと、200戸のマンションで1人が反対することは、同じ「1人」でも意味が違います。

そのため小規模マンションは、対立が起きれば運営が止まりやすい。

これは明確な弱点です。

しかし逆に考えれば、10人、20人程度で、

「自分たちの建物は自分たちで考える」

という文化を共有できれば、意思疎通は大規模マンションより容易です。

私たちは、小規模だから自主管理が難しい、とも、小規模だから自主管理すべきだとも考えていません。

戸数より重要なのは、

情報を共有できるか。

役割を分担できるか。

意見が違っても最終的に決められるか。

役員が交代しても運営を引き継げるか。

という管理体制です。

条件が整えば、少人数であることは自主管理の大きな強みになり得ます。

条件が整わなければ、逆に一人の対立や一人の献身に全体が左右されます。

6.KTCが支援するのは「総会で決められる状態」をつくること

管理会社というと、

管理員を配置する。

清掃する。

点検する。

設備故障に対応する。

会計を処理する。

理事会へ出席する。

という仕事を想像されることが多いと思います。

これらはもちろん必要です。

しかしKTCでは、それだけを管理組合支援の中心とは考えていません。

私たちが重要だと考えているのは、管理組合が総会で物事を決められる状態をつくることです。

そのために理事会の段階で、

「今回何を決める必要があるのか」

「今決めなかった場合はどうなるのか」

「選択肢はいくつあるのか」

「それぞれの費用とリスクは何か」

「管理会社が判断できる部分と、管理組合が判断しなければならない部分はどこか」

を整理します。

実務ではここが非常に重要です。

標準管理規約上も、理事会には収支予算案、長期修繕計画案、その他の総会提出議案を決議する役割がありますが、

私たちが「理事会は準備する場所」と表現するとき、それは法的な理事会の役割という意味ではありません。

重要案件について、総会で適切な判断ができるところまで論点を整理し、

総会承認を得るにあたりどの役員でも明確に説明できる状態で立案しておくことが、理事会運営上非常に重要だという意味です。

総会当日に初めて論点が明らかになったり、一から議論を始める状態は避けたいと考えています。

説明会や意見交換会を行う場合もありますが、それらは意思決定機関ではありません。

必要に応じて理解を深める補助的な場として使いますが、最終的には管理規約に基づき、総会や理事会で決める。

この線引きを曖昧にしないことは、管理体制設計の一部です。

マンション管理で必要なのは「責任者」より「責任の分担」

マンションで問題が起きたとき、

誰が責任を取るのか、と考えること自体が間違っているわけではありません。

不正や怠慢、契約違反、施工不良などがあれば、当然その責任を確認する必要はあります。

しかし、すべての問題を責任追及から始める管理組合は、次第に未来の判断ができなくなります。

理事長は批判を恐れて判断しない。

理事会は前例のないことを避ける。

管理会社は契約書に書かれた最低限のことしかしない。

組合員は決定には参加せず、結果だけを評価する。

これでは、長期的なマンション管理は困難です。

大切なことは、

責任を一人に集めることではなく、役割と責務を適切に分けることです。

組合員は、マンションについて決める最終的な意思決定の主体から外れることはできません。

そのため、まず確認していただきたいのは次の四つです。

  1. 総会で決める事項か、理事会で決める事項か、理事会が履行する事項か
  2. 理事会または理事長に任されている事項は何か
  3. 管理会社との管理委託契約は、どこまでを委託しているのか
  4. 重要案件を総会へ出す前に、選択肢・費用・リスク・先送りした場合の影響が整理されているか

この四つが整理されていれば、「誰が責任を取るのか」という議論の多くは、もう少し具体的な話に変わります。

KTCは、管理組合に代わって決める会社ではありません。

理事長一人に判断を背負わせる会社でもありません。

管理組合が、自分たちで継続して決められる仕組みをつくる。

そのために理事会で判断材料を整え、役割を整理し、総会で意思決定できる状態まで準備する。

管理員業務、清掃、会計、建物維持、緊急対応といった日常業務を支えながら、その土台となる管理体制そのものを整えることが、KTCの考えるマンション管理支援です。

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